2011年3月9日水曜日

自発的ガイドラインの限界

 日本政府は海外農業投資が、「被投資国における農業の持続可能性を確保しつつ、投資側・被投資側の双方が裨益する形で実施することが重要である」として、6つの行動原則を定めている。
 しかしこれまで見るところ、こうした自発的なガイドラインの制定は、投資受け入れ側の地域社会の持続性や人権の保障、食料安全保障の確保には全く役立っていない。

 一つにはこのような行動原則を定めたところで、誰がどのように整合性を確認するのか、という仕組みが欠如している点にある。
1)多くの国で事前協議を行う制度的枠組みが欠如している。民間投資に対しても確実に実施しうるような事前協議制度が存在していなければ、投資プロジェクトに先だって行動指針が定めたような配慮が行われうるのかどうか把握することはできない。
2)事前協議を含め、行動原則に含まれるような配慮や対策が、プロジェクト開始前に行われたかどうかを把握することができない。情報が公開されていない以上、行動原則との整合性を確認することは当事者である企業にしかできない。
3)投資プロセス、事業実施プロセスにおいて発生した問題を把握することができない。
4)現時点において、日本政府の関係省庁において、行動原則にそって現地の状況を調査し、整合性を把握する仕組みは存在しない。
5)市民社会には情報が適切に提供されておらず、行動原則との整合性を第三者が確認できる仕組みがない。

 つまり、現時点において誰も「行動原則との整合性」を確認する仕組みを有さないということである。最低限の取り組みとして市民社会から日本企業の投資行動をチェックしていくことが必要とされている。

 次に仮に行動原則と整合しないケースが確認された場合に何をするのか?これも全く定められていない。誰が、どのような権限を有して、どのような対策を取りうるのか?
 
 こうしたことが全く定められていないままに、行動原則だけが定められ、さらにはいまだ日本政府は国際機関と連携して類似の行動原則を世界中に広げようとしている。

 しかし日本のケースで明らかになっているのは、このような自発的な原則を定めても、全く機能しないだけであり、単なる投資の正当化でしかないという現実である。
 
 地域住民の生活を脅かし、食料主権を侵害するような海外での農地取得を停止し、法的な拘束力のある国際法的な枠組みを適用していくことが必要であろう。

開発と権利のための行動センター
青西

食料安全保障のための海外投資促進に関する指針 より一部抜粋
http://www.mofa.go.jp/ICSFiles/afieldfile/2009/08/20/G0858_J.pdf

4 我が国の行動原則及びこれに関する国際的取組等
(1)行動原則
海外農業投資は、被投資国における農業の持続可能性を確保しつつ、投資側・被投資側の双方が裨益する形で実施することが重要である。この観点から、政府及び関係機関は、本指針に基づいて海外農業投資の促進策を講ずるに当たり、以下の行動原則との整合性を確認する。同時に、被投資国側にも投資環境の整備(収用の原則禁止や輸出規制の抑制等)や投資関連情報の提供などを求めていく。
① 被投資国の農業の持続可能性の確保
(例:投資側は、被投資国において、持続可能な農業生産を行う。)
② 透明性の確保
(例:投資側は、投資内容について、契約締結時等において、プレスリリース等により、開示する。)
③ 被投資国における法令の遵守
(例:投資側は、土地取引、契約等被投資国における投資活動において、被投資国の法令を遵守する。)
④ 被投資国の農業者や地域住民への適正な配慮
(例:(イ)投資側は、投資対象の農地の農民及び所有者に対し、その農地の取得及びリースに関し、適切な対価を提供する。(ロ)投資側は、現地における雇用について、適切な労働条件の下、農民等従業員の雇用を行う。)
⑤ 被投資国の環境への適切な配慮
(例:投資側は、投資に当たって、土壌荒廃、水源の枯渇等、被投資国の環境に著しい悪影響を与えてはならない。)
⑥ 被投資国における食料事情への配慮
(例:(イ)投資側は、被投資国における食料事情に悪影響を与えないように配慮する。(ロ)投資側は、被投資国の主食作物を栽培している農地を他の作物に転換することにより主食作物の生産量を著しく減少させるような投資は行ってはならない。)

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