2011年4月26日火曜日

もはや農地の強奪を“責任ある”ものとする時ではなく、禁止すべき時である

 世界銀行において開催された農地問題についての国際会議[*]に向けて、FIAN、ビア・カンペシーナ、GRAIN、FoEIなどによる声明文である。日本政府も積極的に関与してきた「責任ある農業投資原則(RAI)」を強く批判している。

 

もはや農地の強奪を“責任ある”ものとする時ではなく、禁止すべき時である。

It's time to outlaw land grabbing, not to make it "responsible"!

http://farmlandgrab.org/post/view/18457

2011年4月18~20日(水)、200余の農地への投資家、各国政府代表、国際機関の職員が米国ワシントンの世界銀行本部に集まり、如何に“責任ある”大規模な農地取得を進めるか議論することになっている。ロ-マでは、国連FAOに設置された世界食料安全保障委員会(CFS:Committee on World Food Security)が大規模農地取得を規制する原則についての一連の協議を開始しようとしている。一方、様々な市民団体は、最も緊急な課題として農地収奪を止めさせ、既に取得されたしまった場合については無効にすべく結集しつつある。何故世界銀行や国連諸機関、各国政府は農地取得を“責任ある農業投資”として強力に進めようとするのか?

 今日、農地収奪は猛烈な速さで進行している。契約が締結され、重機械が現場に投入され、土地が囲いこまれ、地元の人々は土地から追いやられている。詳細は正確には明らかでないものの、少なくとも、直近の2~3年間だけでも、インドであれば5,000万人分の食料生産が可能な規模に相当する5,000万haの優良農地が農民から企業の手に渡っている。そして日々更なる投資家がこの動きに参入している。(※1)いくつかのケ-スはカタ-ル、サウジアラビア、中国、韓国など食料安全保障を外国に依存している国々の必要に応えるための新たな方策とされている。その他のケ-スは文字通りビジネスであり新たな利益追求を狙ったものである。国家が関わっているにもかかわらず、多くの場合これらの土地取引は被投資国政府と私企業との間で行われている。当該企業によれば既に250億米ドルの取引が確定済みで、近い将来この3倍規模になるものと見込まれている。(※2)

“責任ある農業投資”(RAI)とは如何なるものか。

 農地収奪の現状に対する政策的な巻き返しの可能性を懸念し、日本、G8など多くの政府や諸機関は、一般的に受容されるような基準を提案しようと動き始めている。中でも重要なものは、世界銀行主導で作成された“権利、暮らし、資源を尊重する責任ある農業投資原則”(RAI:Principles for Responsible Agricultural Investment)である。この原則は、世界銀行、国際農業開発基金(International Fund for Agricultural Development)、UNCTAD及びFAOにより策定された。(※3)この原則は7項からなり、投資家が大規模農地取得を実施する場合に任意で同意をすればよいものである。

RAIあるいはウィン/ウィンの農地取得のための7原則

1. 土地及び資源への権利:既存の土地、天然資源を認め尊重する。

2. 食料安全保障:投資は食料の安全保障を危険に晒すものではなく、それを強化するものである。

3. 透明性、適切な管理、環境保全:土地入手、及び関連する投資の過程は透明性を保ち、監視可能であり、説明責任を保障される。

4. 協議、参加:具体的に影響を受ける事例・事項は協議対象とされ、合意内容は記録されかつ実行される。

5. 経済的実効性と責任ある農業投資:プロジェクトは全ての意味で実行可能性を持ち、法を尊重し、最適な手法を反映したものであり、永続的な共通の利益となるものとされる。

6. 社会的な意味における持続可能性:当該する投資は、社会的かつ享受可能な望ましい影響をもたらすものであり、脆弱なものであってはならない。

7. 環境の持続性:環境への影響は定量化され、持続的な資源利用を促進する対策がとられ、一方でマイナスの影響は最小化あるいは軽減されなければならない。

(09年以降の上記原則の主要な推進主体:EU、FAO、G8、G20、IFAD、日本、スイス、UNCTAD、米国、世銀)

2010年4月、世界中の130余の団体やネットワ-クが声を上げ、“RAI”を強く非難した。ここに加わった団体には、代表的な農民団体の連合体、畜産や漁業従事者なども含まれている。その声明は、“RAI”が土地収奪を合法化するものであり、どのような指針であろうと、国内外の企業が農民から土地を長期的に奪うことを手助けするものであり全く受け入れがたいものであると主張している。(※4)

 この声明が発表されると各国の多くの団体や社会運動が支持を表明した。そしてほどなく“食料への権利”に関する国連の特別調査委員会(Special Rapporteur on the Right to Food)が、RAIは“嘆かわしくも不適切”と批判し、“社会的、環境的に持続性を持つ方法での農業開発という課題に立ち向かうのではなく、世界の農民の破滅を促進させることが責任を完遂することであるかのように振舞うのは嘆かわしいことである”と述べた。(※5)

2010年9月には、世銀が、大規模な土地取得について大いに憂慮させる報告を発表した。それによれば、2年に渡る調査で、世銀は貧しい国や地域にとって成功であると確信出来る事例を見つけることが出来ず、単に多くの失敗事例を見つけただけであるとのことである。実際は土地取引に関わった企業や各国政府は世銀との情報共有を拒否したため、世銀は市民団体であるGRAINのウェッブサイト上のデ-タに頼らざるを得なかったのである。しかしその報告書で、“RAI”が充分な協議によるものでないことに気づいていながら、世銀は“RAI”が有効な解決策であると主張したのである。

 “RAI”の持つ深刻な信頼性欠如にも拘わらず、CFSは2010年10月、それを支持するかどうかという議論をしていたのである。米国や日本政府などは賛成を表明、一方、南アフリカ、中東の利益を代表するエジプト、中国などを含むその他の国々は適切な協議経過が不充分であるとして強く反対した。様々な市民運動体や組織の連合はこの会議に先立ち、“RAI”の枠組みや原則に対する詳細な批判を発表した。(※6)この批判は、農業に関する社会運動、特に食料主権のための国際委員会(IPC:International Committee for Food Sovereignty)に関係する組織やその他の市民団体を結び付けることとなり、CFSに対して“RAI”の拒否を呼び掛けた。結局CFSは“RAI”を支持せず、検討のための包括的なプロセスを続けることのみに合意することとなった。

2010年末までに、社会的に受け入れられる、ウィン/ウィン関係の土地取得をハイレベルで促進する動きは頓挫したかのように見えた。一方社会運動体、その他の市民団体は引き続き“RAI”への大衆的な反対運動の構築を続けた。2011年2月のダカ-ルでの世界社会フォ-ラムでは農民運動、人権、社会正義、環境などに取り組む団体が集まり、馬鹿げた行動指針に目を奪われることなく、土地収奪に対する反対運動の経験共有や戦いの統合を進め、“RAI”の拒否と土地収奪への抵抗を継続し支持を求める対外アピ-ルを発した。 (※7)

“RAI”の提言者は、しかし、あきらめた訳ではない。

CFS 事務局は現在、“RAI”の協議手順に関する提案を協議している。(※8)意見聴取のために回付された最初の案は社会運動体・市民団体から鋭い批判を浴びている。IPCは、この提案は、大規模な土地取得の悪影響を和らげることで“RAI”を認めさせる点に焦点を当てているとして反対を表明した。そしてそれよりも、CFSはまず、“RAI”が実際の問題への適切な対応なのかを分析し、飢餓を克服して小農民とりわけ女性を支援するためにどのような農業投資が必要なのかという課題を議論することに再度焦点を当てるべきである、と主張している。更にIPCは、“RAI”という表現は、投資ではなく土地取得と非常に関連したものであるので、CFSとして使うべきではないと勧告した。しかし“RAI”の背後にいる4つの国際機関は熱心に進めようとしている。

 世銀は既に、ワシントンDCで開催される土地と貧困に関する今年度の年次会議の計画を発表している。(※9)“RAI”は正にそこにおける中心議題とされている。今や世銀の主要な目的は、責任ある大豆、持続可能なパ-ム油及び持続可能なバイオ燃料に関する円卓会議(Roundtables on Responsible Soy, Sustainable Palm Oil and Sustainable Biofuels)あるいは搾油産業における透明性戦略(Extractive Industry Transparency Initiative)など、他のCSRの仕組みの経験を踏まえて“RAI”の実行を開始することにある。(※10)

 一方で各国は、世界的な土地収奪に対して広がりつつある反対運動を封じ込めようと先を争っている。アルゼンチン、ブラジルそしてニュ-ジ-ランドなどの政府は、土地取引が地元の共同体、小規模農民、農業労働者に及ぼす影響に対して、空しいウィン/ウィンという言説を鳴らしながら、海外企業による農地取得の制限や規制の法制化を約束しようとしている。その他のカンボジア、エチオピア、そして中国などの政府は、合法的手段あるいは実力行使でもって地元の論議を押さえこもうとしている。マリでは2012年選挙の前哨戦で、野党である国家再生党(Party for National Renewal)がToure大統領に対し、ニジェ-ル開発局(Office du Niger)が認可した数十万ヘクタ-ルの灌漑農地の貸与の詳細を明らかにせよと突き付けている。最も農地収奪が進んだと言われるス-ダンでは、今や村人が立ち上がり、彼らの土地が没収されたとして政府に反対運動を起こしている。

“RAI”のどこが問題なのか。

 “RAI”を強引に進めることは、農業投資への支援ではない。それは、一定の基準に従うことにより大規模な農地取得が人々、共同体、生態系、気候に破滅的な被害を与えることなく進められ得るという幻想を作り出すことである。これはまさに嘘であり、誤った方向への誘導である。“RAI”は非対称的な力関係を覆い隠し、取引に関わる農地の取得者と国家権力が思い通りのものを獲得出来るようにする企てである。農・畜産・漁業者は彼らの土地が売却されることも貸し出されることも求めてはいないのだ。

 土地収奪は、小農民、先住民、漁民、遊牧民から将来に渡って広大な土地と生態系を利用する権利を奪うものであり、それは彼らの食料と暮らしの安全保障を危険に晒すことである。更に、それらの土地に関わる水資源をも手に入れ、その結果事実上私物化するものである。強制的占有による土地収奪、批判の封じ込め、自然環境を破壊し天然資源を枯渇させる持続不可能な土地利用と農業モデル、露骨な情報遮断、人々の暮らしに影響する政治的決定への意味ある地元参加の妨害は、国際法上の人権侵害と切り離せないものである。どのような自発的原則があろうともこれらの事実・現実への対応策にはならないだろう。公的政策、規制として、曲げられ、提起されるということはあってはならないはずである。

20%もの投資利益を目指す土地取得は全て投機目的である。従って、土地収奪は食料の安全保障とは両立するものではないのである。食料生産は通常せいぜい3~5%の利益をもたらすものでしかない。土地収奪は、投機資本に過剰利益をもたらすことを唯一の目的とする農業の商業化を推し進めるものである。

 土地取引における透明性の促進は“ウィン/ウィン”をもたらすと信じる人がいるかも知れないが、仮に“透明性”なるものが確保されたとしても、広大な農地・森林・沿岸部・水資源の所有権を投機家に引き渡すことは、小農民・畜産農民・漁民、そして地域社会から欠かすことの出来ない、暮らしの資源を何世代にも渡って奪い取ることになるだろう。多くの国において小農や小規模食料生産者の土地所有を保護する仕組みを強化することが緊急に求められており、多くの社会運動が彼らの土地への権利を認めるよう長年戦われて来ている。“RAI”の原則は農地改革や土地の権利に関するどのような進展をも無意味なものにしてしまうだろう。

 巨大企業などについて言えば、“RAI”は彼らの“CSR”という帽子に一つ羽根飾りを加え、都合のいい時にPR出来るようにするだけである。現実の世界では、彼らは引き続き貿易投資協定、法の抜け道、合法性、政治的リスクを回避する仕組み、そして“RAI”を推し進める国際機関からの支援に寄り掛かって、自己の利益を守り、財政的な苦痛・責任から守られることだろう。

 問題は明らかである。これらの農業ビジネスのプロジェクト、ニジェ-ル開発局におけるリビア系マリビヤ社(Malibya)の10万haのプロジェクトから32万haのアルゼンチンのリオ・ネグロにおける中国系Beidahuang Groupに至るプロジェクトは全て、害をもたらす全く違法なものである。彼らにいくつかの原則を順守させるような試みで持って違法性を埋め合わせしようとしても、それは道を誤るものでしかない。

食料主権にこそ投資を!

 “RAI”は何度も誤りを犯している。所謂農業開発の取り組み全て-温室効果ガス、化石燃料の浪費、生物多様性の激減、水道民営化、土壌流出、地域共同体の疲弊、遺伝子組み換え種子に依存する生産等を含む取り組み-は、20世紀の破壊的で持続不可能な開発などのくだらない堆積物である。まさしくアラブ各国の兄妹姉妹たちが自らの尊厳と自己決定の空間を取り戻すために旧体制の足かせを壊しているように、我々は企業的農業と食の仕組みという足かせを壊す必要がある。

 法的規制によるのではなく、農地収奪は直ちに中止、禁止されなければならない。つまり議会・政府は緊急に全ての大規模土地取引を中断させ、(※11)既に締結された取引を無効にし、横領された土地を地元の共同体に返却し、土地収奪を禁止すべきである。政府はまた、自分の土地を守ろうとする人々を迫害したり、犯罪者扱いすることを止め、拘留されている活動家を釈放すべきである。

 我々は、繰り返し市民団体・アカデミズムが求めた2006年のFAO、国連、ブラジル政府共催による「農地改革と農村発展に関する国際会議」(ICARRD:International Conference on Agrarian Reform and Rural Development)で合意された行動計画の実行を重ねて要求する。これは自然と資源についての最も権威ある、合意による、多角的な枠組みである。同様に2008年のFAO等国連機関・各国政府・企業・NGOからなる「開発のための農業技術評価会議」(IAASTD:International Assessment of Agricultural Knowledge, Science and Technology for Development)の結論の実行を求めるものである。我々はまたCFSに対して「土地と天然資源の管理に関するFAO指針」(FAO Guidelines on the Governance of Land and Natural Resources)の採択を求めるものである。この指針は人権法に深く根差したもので、国家レベル・国際レベルにおいて都市・農村の有権利者の土地や天然資源に対する権利を守りまた満たすべく有効なものである。

 過去数年の間に、飢餓、食料危機、気候問題の真の解決策について幅広い合意が形成されてきたことは明らかである。つまり;

 ・小農経営、家族農業、漁民によるその土地固有の、生態系を損なわない手法と地場流通に基づく食料供給システムが、持続可能な、健康で、暮らしの質を高める食料システムであること、

 ・生産、流通、消費のシステムは、地球の限界に整合するものに根源的に変わらなければならないこと、

 ・小規模食料生産者の必要、提案、直接的管理に対応する新た農業政策が、これまでの上意下達の、企業主導の、新自由主義の体制にとって代わらなければならないこと、

 ・真の農業・漁業改革が実行され、土地と生態系が地域共同体に返還されなければならないこと、である。(※12)

  これが食料主権と公正への道であり、“責任ある“土地収奪とはまさに正反対のものである。そして我々はこれからも実現に向けて国際的に連帯して戦いを続けるものである。

2011年4月17日  (2011.04.26翻訳:近藤)

Centro de Estudios para el Cambio en el Campo Mexicano (Study Center for Change in the Mexican Countryside)

FIAN International Focus on the Global South

Friends of the Earth International

Global Campaign on Agrarian Reform

GRAIN

La Via Campesina

Land Research Action Network

Rede Social de Justica e Directos Humanos (Social Network for Justice and Human Rights)

World Alliance of Mobile Indigenous Peoples

World Forum of Fisher Peoples  

[1]     In 2010, the World Bank reported that 47 million hectares were leased or sold off worldwide in 2009 alone while the Global Land Project calculated that 63 million hectares changed hands in just 27 countries of Africa. See "New World Bank report sees growing global demand for farmland", World Bank, Washington DC, 7 September 2010, http://farmlandgrab.org/post/view/15309, and Cecilie Friis & Anette Reenberg, "Land grab in Africa: Emerging land system drivers in a teleconnected world", GLP Report No. 1, The Global Land Project, Denmark, August 2010, http://farmlandgrab.org/post/view/14816, respectively.
[2]     See High Quest Partners, "Private financial sector investment in farmland and agricultural infrastructure", OECD, Paris, August 2010, http://farmlandgrab.org/post/view/16060.
[3]     The four agencies have also created an internet-based knowledge platform to exchange information about RAI. See http://www.responsibleagroinvestment.org/
[4]     "Stop land grabbing now! Say NO to the principles on responsible agro-enterprise investment promoted by the World Bank", available online at http://www.landaction.org/spip/spip.php?article553
[5]     "Responsibly destroying the world’s peasantry" by Olivier de Schutter, Brussels, 4 June 2010, http://www.project-syndicate.org/commentary/deschutter1/English 

日本語訳:「責任を持って小農を破壊しようとする『責任ある農業投資原則』」 http://landgrab-japan.blogspot.com/2011/01/blog-post_7237.html

[6]     "Why we oppose the principles for responsible agricultural investment", available at http://www.landaction.org/spip/spip.php?article570.

日本語訳:なぜ我々は「責任ある農業投資原則」に反対するか  http://landgrab-japan.blogspot.com/2010/10/blog-post.html

[7]     See "Dakar appeal against the land grab", which is open for endorsement by organisations until 1 June 2011: http://www.petitiononline.com/dakar/petition.html.
日本語訳:農地収奪に反対するダカールからの要請  http://landgrab-japan.blogspot.com/2011/03/blog-post_4646.html

[8]     See http://cso4cfs.files.wordpress.com/2010/11/proposal-for-consultation-process-on-rai-principles.pdf
[9]     See http://go.worldbank.org/YJM5ENXKI0.
[10]   For background see John Lamb, "Sustainable Commercial Agriculture, Land and Environmental (SCALE) management initiative: Achieving a global consensus on good policy and practices", World Bank, July 2009, http://farmlandgrab.org/post/view/7649.
[11]   By this we mean, taking possession of and/or controlling a scale of land for commercial and/or industrial agricultural production which is disproportionate in size in comparison to the average land holding in the region.
ここで言う“大規模な…”とは、当該地域の平均的な土地所有面積に比べて、不釣り合いに大規模な土地を商業目的や企業的生産のために所有、支配すること、である。

[12]   This consensus is reflected in the work of the UN Special Rapporteur on the Right to Food, Olivier de Schutter. His March 2011 report on agroecology and the right to food captures a large body of today's public opinion on how to move forward. See http://www.srfood.org/index.php/en/component/content/article/1-latest-news/1174-report-agroecology-and-the-right-to-food.

 

 

<付記>

世界銀行で開催された会議は次のものである

[*]ANNUAL WORLD BANK CONFERENCE ON LAND AND POVERTY   

http://econ.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/EXTDEC/EXTRESEARCH/EXTPROGRAMS/EXTIE/0,,contentMDK:22806005~pagePK:64168182~piPK:64168060~theSitePK:475520~isCURL:Y,00.html

豊田通商と包括提携を結んだアルゼンチンのニデラ社による農園労働者搾取などに関する質問状に対する農林水産省の回答

  4月25日付けで、農林水産省より受け取った質問状の概要は以下のとおりである。

http://cade.cocolog-nifty.com/file/20110425MAFF.PDF

1) 現在アルゼンチンの行政・司法当局によって調査中であり、その結果を見守るべきものと考えます
2) 本件については、現時点でその事実関係がはっきりしておりません。このため、引き続き情報収集に努めるとともに、豊田通商にも照会し、事実関係の把握に努めております。

<回答に対して  青西>
*「結果を見守った後」、どのような対応を取るのか。世界銀行等が進めるRAI(責任ある農業投資原則)においても、この日本政府の「指針」においても、空虚なままに残されている点である。投資対象国の国内法に違反すれば、当然、対象国の法律に基づいて処罰されるべき問題である。
 それ以前に、あるいはそれ以上に、投資国側として何ができるかが求められているのである。それが何もない、投資受け入れ国の国内法のみが、法的あるいは行政的な対処を定めるとすれば、この「指針」も「RAI」も定める必要はないのである。法的拘束力を持たない「自発的原則」は単に投資にお墨付きを与える役割しか持ち得ないのである。

*「事実確認の方法論」について質問したが、回答はない

*「日本国民への情報提供の仕組み」についても回答はない。

 また豊田通商にしても、日本政府の関係省庁にしても、現地報道及びそれに対する見解を何一つWEB サイトで公表していない。市民社会に情報が開かれることがなければ、このような「指針」の履行の監視は困難である。

 

<以下 質問書>


  2011年3月3日
外務大臣    前原誠司殿
農林水産大臣  鹿野道彦殿

外務省   経済安全保障課
農林水産省 食料安全保障課
農林水産省 国際協力課
                                    質問書

 2011年1月24日、2010年11月24日付で送付させていただきました質問書に対して、電話及び文書にて回答を頂きました。当方からの質問書に対応していただきましたことお礼申し上げます。

 その後、アルゼンチンにおけるニデラ社の農園における農園労働者の搾取、労働関係法及び徴税関連法への違反が、アルゼンチン政府当局によって摘発されたとの記事を目にしております。
 このアルゼンチンのニデラ社は昨年11月に日本の豊田通商と包括提携を結んでおります。つきましては、日本政府が定めました「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」に基づき、この事例に対して、特に「指針」の③と④に関連して、日本政府がどのような情報を収集され、どのように対処されたのか、あるいは対処される予定であるのかを公表いただきたく、お願い申し上げます。

 また現地ニデラ社側が否定をしている一方で、アルゼンチン政府の関係当局が摘発を行っている中で、日本政府として、どのような手段によって、事実確認を行われるのか、方法論についても回答頂きたく思います。前回の質問書の回答によると「当事者である株式会社等からヒアリングを行い」ということが書かれておりましたが、今回のような事例においては「当事者」からのヒアリングだけでは不十分かと思われます。このような際に、今後どのような形で対応をされていくのでしょうか。

 前回の質問書にも記させていただきましたが、日本国政府はこの「指針」以外にも、世界銀行などとともに「責任ある農業投資のための行動原則」の策定にも取り組んでいます。この中でも「指針」と同様に、土地と資源に対する権利の尊重、食料安全保障、透明性の確保や、協議と参加、社会的持続性、環境持続性などが取り上げられています。
 このような「指針」や「行動原則」が実効性を持つためには、企業との情報共有を進めるだけではなく、市民社会に幅広く情報が共有されることが不可欠だと考えます。「指針」等を定めるのであれば、輸入食料を利用している日本国民に対して、幅広く情報を提供するための仕組みが構築されることが前提となるべきであろうと考えます。

青西靖夫(開発と権利のための行動センター 代表)
大野和興(日刊ベリタ編集長)
近藤康男
松平尚也(アジア農民交流センター)

2011年4月25日月曜日

フィリピンの反政府勢力が日本のフルーツ輸出企業の土地略奪を批判

Mindanao Examiner[1]のサイトまたManila Times[2]のサイトに、ミンダナオ島で住友フルーツ・フィリピン社による農地略奪を訴える次のような記事が掲載されている。

[1] の記事では「NPAの訴えについて直ちに確認をとれない」としている。[3]に紹介した情報などによると、バナナ農園の拡大が進められていることは間違いはないようであるが、実際に農民との間でどのような問題が起きているのか、今後フォローしていく必要があると考える。

またフィリピンにおける農地収奪について、特にバイオ燃料との関係では、次のサイトにも情報が集約されている。

http://www.geocities.co.jp/SweetHome-Ivory/9660/jpepa/biofuels.html 

 

[1] 2011年4月12日 Mindanao Examiner掲載 
原文:http://www.mindanaoexaminer.com/news.php?news_id=20110412005532

ダバオ市 フィリピン共産主義反政府勢力は12日、日本企業の子会社がミンダナオの地元農家から農地を略奪していると訴えた。

併せて同勢力は、住友の子会社である住友フルーツフィリピン社がバナナ農園の拡張を予定しているスルタン・クダラット州および南コタバト州において、農民たちの権利を守るために戦うと警告した。

新人民軍Valentin Palamine地域部隊はこれらの州における大量の農地略奪について強く批判した。南コタバト州だけでも、同社は5,000ヘクタール以上の農地を保有し、さらに拡大を続けていると反政府勢力は主張している。

彼らは、警察や軍隊も住友フルーツ社と共謀し、Barangay Integrated Farmers Association against Crimeのリーダー数名をスルタン・クダラット州Palimbang町において警備員が殺害したと主張している。

ミンダナオ島において少なくとも総数25,000ヘクタールと、警察による十分な武装勢力を手に、地元政府と米国・アキノ政権、住友フルーツ社の農地拡張はどん欲でとどまるところを知らない、と反政府勢力のDencio Madrigal氏は言う。

「我々赤軍は、住友フルーツ社やドールStanfilco社など、強欲な多国籍企業による我々の豊かな農地の略奪について暴露し反対する義務がある。フィリピン人民たちの真の兵士として、NPAは人民および彼らの土地と生活を守るために闘わねばならない」

ドールStanfilco社に次ぐ住友フルーツ社は東京に拠点を置く青果輸入流通業者であり、フィリピン産バナナは同社の貿易の多くを占め、輸入量にして25%のバナナ市場占拠率を持つ、業界第2位の企業だ。

一方、ドールStanfilco社は、バナナおよび他のトロピカルフルーツを生産輸出している。同社はドールアジアグループに属し、ダバオに本社を置く。

NPAの訴えについては直ちに確認をとることができないが、両社とも以前からミンダナオにおいて反政府勢力に攻撃されている。NPAはミンダナオにおいて毛沢東主義国家の建設を目指している。

[2] http://www.manilatimes.net/news/regions/npa-accuses-japan-firm-of-landgrabbing/

[3]Sumitomo Fruit to expand Philippine banana plantations(2010/4/26)

04/26/2010http://www.gmanews.tv/story/189439/sumitomo-fruit-to-expand-philippine-banana-plantations

Sumitomo, local partner allot P5B for expansion of banana plantation(2005/08/08)

2011年4月6日水曜日

アルゼンチンのニデラ社との包括提携に関連して、豊田通商に送付した質問状に対する回答

アルゼンチンのニデラ社との包括提携に関連して、豊田通商に送付した質問状に対する回答を3月31日付けで受け取った。

内容は次のようなものである。

また関係省庁からの回答はいまだ受け取っていない。

 

20110331 toyota

 

・弊社(豊田通商)とニデラ社の提携は、アルゼンチン産およびブラジル産穀物・油糧種子について協力して販売促進していくこと、および、輸出施設や保管施設への出資や買収を検討の上、実施することであり、アルゼンチンでの栽培農地への投資・運営の実績や栽培農地に係る契約関係(土地取引含む)はございません。
・本件に関し、ニデラ社は公式ホームページ上で下記の声明を発表して、否定しており、弊社もニデラ社より同様の報告を受けております。
「アルゼンチン税務当局に登録済みの労働者を雇用しており、全てアルゼンチンの規則に則っている」
また、アルゼンチン種子協会も同様に否定しております。
・現在、アルゼンチン当局が調査中であり、調査結果が公表されていない段階と理解しております。従い、弊社としては。現状は事態を静観している状況であります。

>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
 
 上記のような回答であるが、次のような問題点がある。

1)日本政府が定めた「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」は、海外農業投資を「我が国からの海外農業投資(生産、集荷、輸送、輸出等を含む海外農業関連投資をいう。)」と定義しており、その上で被投資国における法令遵守(指針3)を定めているのであり、今回の豊田通商の回答は、上記指針に沿ったものとはなっていない。

食料安全保障のための海外投資促進に関する指針
http://www.mofa.go.jp/ICSFiles/afieldfile/2009/08/20/G0858_J.pdf

2)この件について、豊田通商のWEBサイトにも、外務省、農林水産省のWEBサイトにも一言も掲載されておらず、海外農業投資原則が定めた「透明性」は全く保障されていない。

3)企業として、社会的責任を果たすために、労働者の雇用条件改善に貢献しようという方向性は全く見えない。

4)アルゼンチンでは労働省と農業者連盟が、農村労働者の労働条件改善と監視強化を実現するために、合同委員会を設置することに合意。[1]
一方、連邦歳入局(AFIP)がニデラ社を始め、カーギル社、バンジ社の支社など117カ所を立ち入り調査を行ったことが3月1日に報道されている。14ヶ月間に1億5千万ペソ(約30億円)を脱税した疑いがもたれている。 [2]
既にニデラ社は連邦債入局により、脱税の疑いから、2月10日に登録穀物取り扱い業者としての資格を停止されている。[3]


ここまでこのブログで取り上げてきた事例において、この「指針」が適切に運用されて、十分に情報公開がなされ、現地状況が分析され、適切な対応が取られているケースは存在していない。

青西靖夫


[1]Contra el esclavismo
http://www.pagina12.com.ar/diario/economia/2-164797-2011-03-24.html
[2]La Afip allanó 48 cerealeras denunciadas por evadir 150 millones de pesos
http://www.pagina12.com.ar/diario/ultimas/20-163287-2011-03-01.html
[3]La AFIP suspendió a Nidera del registro de operadores de granos       http://www.am1380.com.ar/index.php?option=com_content&view=article&id=91:la-afip-suspendio-a-nidera-del-registro-de-operadores-de-granos&catid=12:economia&Itemid=14
Suspensión para Nidera 
http://www.pagina12.com.ar/diario/elpais/1-162185-2011-02-11.html

 

3月3日付で送付した質問書

質問書

 先般、アルゼンチンにおいて、ニデラ社の農園における農園労働者の搾取、労働関係法及び徴税関連法への違反が、アルゼンチン政府当局によって摘発されたとの報道がなされております。[1]
 またこのアルゼンチンのニデラ社につきましては、昨年11月に貴社が包括提携を結んだとのニュースリリースも読ませて頂いております。[2]

  一方、日本国政府は2009年(平成21年)8月20日に外務省及び農林水産省の共催によって第5回「食料安全保障のための海外投資促進に関する会議」を開催し、「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」を取りまとめております。
 この中で、日本国の海外農業投資においては、「被投資国における農業の持続的可能性を確保」することが重要であることを認め、政府及び関係機関は、「本指針に基づいて海外農業投資の促進策を講ずるに当たり、以下の行動原則との整合性を確認する」ことを定めております。[3]
 今回のニデラ社に関する報道はこの「指針」の③と④に抵触しているものと考えられます。

 ニデラ社はこの報道について否定をしておりますが、アルゼンチン政府による摘発であり、十分な根拠があるものと当方では考えております。また企業活動を行っていく上で、法令遵守、人権の尊重は極めて重要な事柄であると考えております。
 社会的な存在である企業として「企業の社会的責任」のあり方、また「グロ-バル・コンパクト」に対する取り組み姿勢にも強く関連するものであります。

 つきましては豊田通商株式会社としての、これまでの現状の把握及び今後の対応についてお聞かせ頂きたくお願い申し上げます。

青西靖夫(開発と権利のための行動センター 代表)
大野和興(日刊ベリタ編集長)
近藤康男
松平尚也(アジア農民交流センター)


[1]「農地は誰のものか」ブログ記事より
 http://landgrab-japan.blogspot.com/2011/02/blog-post_12.html
アルゼンチンでの農園労働者搾取と日本商社
日本の豊田通商と昨年11月に包括提携を結んだアルゼンチンの穀物商社ニデラの農場において、未成年、児童を含めた農村労働者を劣悪な条件で働かせていたとして、アルゼンチン当局が強制捜査を行い、労働者を解放、現在告発に向けて調査を続けている。
(以下別添)
[2] 南米に強みを持つ穀物メジャーと包括提携を締結
~ 食料資源確保のため供給ソースの多角化へ ~
http://www.toyota-tsusho.com/press/2010/11/20101119-3580.html
[3] 食料安全保障のための海外投資促進に関する指針 より一部抜粋
http://www.mofa.go.jp/ICSFiles/afieldfile/2009/08/20/G0858_J.pdf

4 我が国の行動原則及びこれに関する国際的取組等
(1)行動原則
海外農業投資は、被投資国における農業の持続可能性を確保しつつ、投資側・被投資側の双方が裨益する形で実施することが重要である。この観点から、政府及び関係機関は、本指針に基づいて海外農業投資の促進策を講ずるに当たり、以下の行動原則との整合性を確認する。同時に、被投資国側にも投資環境の整備(収用の原則禁止や輸出規制の抑制等)や投資関連情報の提供などを求めていく。
① 被投資国の農業の持続可能性の確保
(例:投資側は、被投資国において、持続可能な農業生産を行う。)
② 透明性の確保
(例:投資側は、投資内容について、契約締結時等において、プレスリリース等により、開示する。)
③ 被投資国における法令の遵守
(例:投資側は、土地取引、契約等被投資国における投資活動において、被投資国の法令を遵守する。)
④ 被投資国の農業者や地域住民への適正な配慮
(例:(イ)投資側は、投資対象の農地の農民及び所有者に対し、その農地の取得及びリースに関し、適切な対価を提供する。(ロ)投資側は、現地における雇用について、適切な労働条件の下、農民等従業員の雇用を行う。)
⑤ 被投資国の環境への適切な配慮
(例:投資側は、投資に当たって、土壌荒廃、水源の枯渇等、被投資国の環境に著しい悪影響を与えてはならない。)
⑥ 被投資国における食料事情への配慮
(例:(イ)投資側は、被投資国における食料事情に悪影響を与えないように配慮する。(ロ)投資側は、被投資国の主食作物を栽培している農地を他の作物に転換することにより主食作物の生産量を著しく減少させるような投資は行ってはならない。)