2013年12月19日木曜日

ナカラ回廊地域の農業開発マスタープラン形成 のためのコンセプト・ノート(Concept Note)についての 専門家による分析

本分析は、第7回「ProSAVANA事業に関するNGO・外務省意見交換会」(2013年12月18日)での議論に寄与するために作成された[1]。日本のアフリカ農村経済学、アフリカ農業・農村開発、モザンビーク研究、国際協力研究の専門家によるものである[2]。これは、ProSAVANA-PD[3]の「レポート2」(2013年3月[4])の分析に続くものであり(「専門家分析と問題提起」2013年5月8日[5])、プロサバンナ事業について国内外の市民社会が事業実施(政府)関係者らと活発に議論する土台を提供することを企図している。

なお、分析にあたり、JICAに対し「コンセプト・ノート」作成の土台となった現地調査報告の共有を繰り返し求めてきたが、現在も提供頂けていないため、同「ノート」のみの分析となった[6]。同「ノート」の各所に「現状状況の把握・認識」の問題が散見され、それが現地調査の問題(狙い・設定・手法・結論の導きだし方)から来ている可能性が高いものの、資料の不在からその検証が不可能となっている点について予め明記する。事業をより良いものとするため、また意味のある議論のため、現地調査報告の早急なる公開を引き続き求めたい。

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総論

ProSAVANA-PD より2013年9月に発表されたナカラ回廊農業開発マスタープランのConcept Note(コンセプト・ノート)は、以前、市民社会が入手した「ProSAVANA-PDのレポート2(2013年3月)」の基本的な考え方をそのまま維持しながら、国際的な懸念事項となりつつあるアグリビジネスの進出・土地収用の面を曖昧にしている。代わりに、農民とくに小規模農民が、現場における自然・社会状況に自らの保有する資源を用いて対応している事実から課題を設定せず、「農業革命」ともいうべき戦略、すなわち個別の土地占有権取得を強行し,耕地の使用権の範囲を固定、確定することによって、未利用地となる部分を作り出し、その部分への農業投資を促進しつつ、マスタープラン対象地の小規模農民に、外部資材依存の高投入・高収量の農業への転換を強制するための戦略を描き出している。 

一方アグリビジネスの進出を促していることは、農業へのサプライチェーンの構築を彼らの活動に依存することを謳っており、小農生産をこの目標に適したものに転換させる意図を示している。しかし小規模農民にこのような農業の急転換を強いることは、小農の生活の社会的基盤となっているコミュニティ(生活共同体)を崩壊させる。小農がアグリビジネスとの間で、一方的に不利な契約栽培の関係に追いやられる、あるいはまた、土地占有権の範囲を狭く決定されるといった結末を招く結果となることが、ほぼ確実に予測される。

これまで、日本政府(外務省・JICA)より、プロサバンナ事業並びにマスタープラン策定の目的は、「対象地域の小農支援のため」と繰り返し強調されてきた[7]。以上の「総論」並びに、以下の「内容分析」でみられる通り、同「ノート」が対象地に暮らす400万人近くの小農とその家族の支援のためのものとなっていないことは明らかである[8]。このように重大な問題のある「コンセプト・ノート」は、現地の農民や市民社会に大いなる懸念を生じさせることは確実であり、これまでに現地社会で蓄積したプロサバンナ事業へのさらなる反発と不信感を生じさせる「リスク」が大きい点を指摘する[9]

コンセプト・ノート の内容に関する分析

1.目的(Mission) として、(1)農業を近代化し、生産性と生産量を向上させ、農業生産の多様化をはかり、(2)農業投資とサプライチェーンの創設を通じて雇用を増大させる、と書かれている(p.1)。これは農業の近代化が、現在すでに小農・中農生産のもとで多様化している農業を、特定作物の単作の方向に向かわせる結果を招き易い矛盾をはらんでいる。また農業投資の受け入れとサプライチェーンの創設が、すぐにも雇用を飛躍的に増大させるかのような議論になっており、大規模企業における雇用吸収力がそれほど大きくない現実を見誤っている。

2.小農とアグリビジネスのwin-winの関係を構築するというが(p.10)、それを可能にするためには、力関係の圧倒的な差がある現状で、ビジネス側の利潤追求欲の抑制と、政府による強力な介入(例えば契約農業の導入に際しては、契約の取り決めに関する小農側の支援)が不可欠となる。しかし大規模資本の導入に熱心な現政権側には、そのような支援を期待できず[10]、むしろ企業進出の便宜を図ることを主目的として誘致活動をする方向が予測される。

3.以上のアグリビジネスへの配慮は次の諸点にも見られる。モザンビーク各所で本年3-4月に開催された第3回ステークホルダー会議で配布された資料、その基となった「ProSAVANA-PDのレポート2」に顕著であった「ゾーニング(Zoning)」の手法をそのまま踏襲する一方、同「ノート」ではゾーニングごとの開発主体の指定は行われていない(pp. 13~17)。しかし、ゾーニングの考え自体が農業・農村開発においてトップダウンの典型的な手法であり、この手法を使う限り、ほぼ必然的に農家の選択・自由を奪う点についての理解や配慮が皆無である。また、ゾーニングの考えは、次に続くバリューチェーンの創設(pp.17~18)とクラスター(集合的)システム開発の構築(pp.19~24)の考え方にそのまま残っている。ここでは先行研究で当たり前に議論されるバリューチェーンの否定的な問題点(商品ごとの1社独占、競争排除、輸出向けの優先、利益分配上の問題、赤字の農業者への押し付け)などは、まったく考慮されていない。

4.マスタープランの実施に関するキーアクター(主要な関係者)として(pp.24-26)、

1)農民(小規模、中規模、商業的)、2)公共セクター(政府)、3)民間セクター(商業的農業)、商人、商社、加工業者、農村金融などのサービス供給者、測量などの専門家)、4)市民社会(NGO、大学関係者)、5)開発パートナー(ドナー国と国際機関など)、が列挙されている。公共セクターの役割として、「農民と民間企業に競争的な環境の中で活動する条件を作り出す」と書かれている。しかし小規模農民、女性、その他の傷つきやすい者の権利を守ることは書かれていない。ここで小規模農民の役割として、特に強く主張されているのが、自給的農業から「持続的」農業への転換であり、市場向け農業の推進である。小農、中農、商業的農業を区別していないばかりか、小農民の農業生産のあり方を一括りにして扱い、現状に発展の兆しがあるにもかかわらず、小農民を現在の貧困問題の原因であると決め付け、農民の自発性を無視して、恣意的に上述の役割を決定している。

なお、同「ノート」で「持続的農業」と呼ばれている農業の手法は、改良種子や化学肥料等外部からの投入財に依存した農業であり、通常「持続的農業」とは呼ばれないものである。特に、小農の視点からみて、外部投入財に頼り続けなければならない農業の在り方は、明らかに経済的な面でも環境的な意味でも「持続的」と称することはできないことは周知の通りである。この点の考察がまったくされずに、「持続的農業」という概念が持ち込まれているのは恣意的といわざるを得ない。

5.社会環境的配慮

本事業には、JICAの「環境社会配慮ガイドライン(2010年)」が適用されると記されている(p. 26)。しかしこのガイドラインは、モザンビークの住民や市民社会団体にきちんと説明されたことは無く、公用語であるポルトガル語訳も無いため、住民や市民社会が十分に理解することは不可能なまま現在に至っている[11]。つまり、住民の情報アクセスの権利が保障されず侵害される一方、「説明会」「ステークホルダー会議」「意見聴取」を行ったと強調されている[12]

またナカラ回廊の環境的、社会的影響は「調査中である」と書かれているが、そのような調査が公表されたことはない。またモザンビークの法に定義された環境影響評価(EIA)が、個々のプロジェクトについて、適用時における執行期間の責任団体によって実行されると書かれている。マスタープランの中心的問題(土地、林地、食料安全保障、便宜の配分関係)については、別に勧告を作成するとされる。

しかし現在、推測できる否定的な影響は、すでに以前からのこの周辺への急激な投資の進出によって明らかな事柄が多く、事後的な評価は受け入れがたい。「自然環境上の」現地への否定的な影響として、17項目があげられているが(p.27)、 a)生物多様性の喪失、b)森林の二酸化炭素吸収力の減少が入っておらず、社会への否定的影響には、単に可能性のあるリスクとしてc)文化的、歴史的遺産の喪失、d)非自主的移住、f)生活スタイルの大きな変化、g)傷つきやすいグループの周縁化、h) 性差の拡大があげられている。またあり得る影響として考えられる、i)住居移動の際の補償が不十分、j) 生活の質の低下、k) 汚職と腐敗した社会の発生は記されていないが、このような事態は、急速な投資の流入によって、対象地ですでに明確な形で起っている。

同「ノート」では、この後に各郡(District)における会合リストが続き(Annex 1)、そこにおいて、これまでになされたプロサバンナ事業についての説明要求項目が列挙されているが(pp.28-30)、要約にすぎず、「要求項目」のいくつかに事業推進者側の解釈も含まれている上に、その説明がどのようなものであったのかは、何も書かれていない。

6.小規模農民(自給的農業)へのコンセプト・ノートの考え方に関する疑問

同「ノート」では、小規模農民の農法と土地保有制度のあり方について、緑の革命になぞらえられるような「農業革命」の早期遂行の方針が提起されており、これが同「ノート」の中心部分を構成している。この考え方は一口に言い表せば「移動耕作から定着農業へ(Transformation from shifting cultivation to settled farming)」であると書かれている。この戦略を取る必要性を強調するために、現状は移動耕作が主体であり、それは生産性が低く土地保全に対処できないものであり、また人口増加率が高いため移動耕作のサイクルで休閑期間の短縮をもたらし、将来的には行き詰るほかはないと強調する(pp.7-9)。

また移動耕作に森林減少の責任を負わせるという、アジアの例で否定されている概念を用い、大規模企業による森林伐採(違法伐採・植林や開墾のための伐採)という真の元凶を示していない。これらを証明するためのデータとして、2011年の19年後(すなわち2030年)の1人当たり生産高と人口増加のマクロデータを用い、現状のままと定着農業となった時の数値を比較して、定着農業への移行が不可欠であると主張しているのは作為的である(Annex 2 参照)。なお、真に森林伐採を問題と考えるのであれば、なぜ森林保護のターゲット(数値を含む)や手法が何も書かれていないのか疑問である。同「ノート」で小農と並列に置かれた「大規模/商業的農業」が、数千ヘクタールもの森林を1年以内に一気に破壊している現状がまったく言及されない点も同様である。

7.以上の論議に明らかな傾向として見られるのは、「緑の革命」的転換が、農民の差し迫った必要から発した論議ではなく、外部者による長期的、一般的な予測を基とした戦略の思想から発していることが見て取れる。しかしその論議を、差し迫った開発計画の中心的命題として、計画遂行の根拠に直結させていることは大きな問題を惹き起こす。現在小農が行なっている農法の分析と、その有効性を認めるデータ収集が現地調査の設計には入っておらず、移動耕作の多様性とその変化、例えば多くの農民は徐々に住居を固定し、換金作物を含む休閑と耕作を繰り返す新しい輪作農法を発展させている(例:JIRCAS,山田隆一、飛田哲の調査)などの事実を取り入れていないため、論議が極端に単純化されている。移動耕作の変化という長期的課題を現在一気に解決しようとして強行すれば、現地の社会経済的な状況、すなわち現在の住民の生活に大混乱をもたらすことは必須である。農業生産も意図に反して停滞を余儀なくされるであろう。

8.土地使用権利証取得(DUAT Acquisition)の問題点(pp.16~18, p.23)

小農に関する開発戦略の第一に挙げられているのが、DUATの取得に関するものである。小農の土地使用の確定にDUAT権利証の取得が必要と考えられているが、モザンビークの1997年土地法では、小農の使用している土地は、慣習法のもとに、権利証なしでも占有と使用が認められている。

土地法の第12条には次のように書かれている。

The right of land use and benefit is acquired by

a) occupancy by individual persons and by local communities in accordance with customary norms and practices which do not contradict the Constitution.

b) occupancy by individual national persons who have been using the land in good faith for at least ten years,

c) authorization of an application submitted by an individual or cooperate person in the manner established by this Law,

さらに第13条には次のように書かれている。

2. The absence of title shall not prejudice the right of land use and benefit acquired through occupancy in terms of sub-paragraphs a) and b) of the previous article

 従って小農は、”title” を確定しなくとも、上記の条件に合えば、土地を使い続けることができる。DUAT権利証の取得を強制する政府の方針があるとすれば、それは土地を担保として農民への金融を行なう手段であるか、またはDUATの小農の権利範囲を測定し狭め、権利の及んでいない部分を未利用地として、他の要請(例えばアグリビジネスの土地取得の要請)に応えることのできる土地を確保しておきたい、という隠れた理由があるからと考えられる。従って、「定着農業」を作り出すためにDUAT 権利証の取得が必要であるとの主張は、農民金融およびアグリビジネスへの土地提供という危険性の高いもの以外の理由を提示できない。アフリカの近隣諸国でも、土地への慣習法上の権利認定と権利証の取得とは、土地保有の実態を勘案して、一応切り離されて考えられている[13]

9. DUAT 権利証の確定の際の農民の権利の範囲

DUAT権利の確定を、慣習法で保護された権利に基づいて考えれば、個々の農家のDUATの範囲は、慣習的共同体が存在する場合は、農民が属しているその慣習法上の共同体(Community)の土地の範囲が確定さえしていれば、その範囲内に占有権が得られていることになるため、個別の権利証は必要条件ではない。小農のDUAT権利確定(titling)を急いで実行すれば、権利の範囲は現に耕作している(一時期の)農地と家屋地に限られてしまうという不合理が残る。

小農には休閑地に対する使用権、場合によっては林地や放牧地などにも使用権を持っており、これらは現時点での耕地の数倍の面積にのぼる。これは、ProSAVANA-PDのレポート1でも的確に指摘されている点である。この面積は共同体の場合は当然考慮されている農民にとっての生活上、必要不可欠の土地である。また農民の耕地は分散していることが多く、それぞれの地片には、土壌の性質などの違いにより、異なる作物を栽培していることが、モザンビークの各種の農業統計からも明らかになっている。農民らは、これらの地片(0.5ヘクタール前後)を巧みに使い分けて生産をしている(District Profiles 2005)。DUAT権利の範囲確定には、これらの農民の権利を侵さないようにする必要がある。

また世代を経ることによる土地拡大の必要や、近隣世帯との調整など、範囲確定(demarcation)には時間がかかるのが常である。現在、モザンビークでは土地をどのように農民の権利を擁護しながら活用していくべきかについての議論は始まったばかりである。そのような中、小農支援という点から大いに問題がある動きが、ドナーの側からも出ている(G8 New Alliance for Food Security and Nutrition[14])。プロサバンナ対象地だけをモザンビーク国家の全体の文脈から切り離し、当事者不在のまま、一方の方向性だけを急いで推進すべきではない。なお、事業対象地が3州19郡におよび、社会環境・政治経済並びに農業・土地条件が大きく異なっている点については、同「ノート」は何も検討しないまま、ある特定の方向の「課題」と一つの解決策にのみ結論を誘導するという問題を抱えている。

10. 契約栽培(Contract farming)の問題点

アグリビジネスと小農、中農、大農と契約栽培は、農業投入財や市場へのアクセスを確保し、バリューチェーンを作り出す方法として、「コンセプト・ノート」で積極的に推奨されている。また契約栽培を小農と結ぶ際に、土地使用権確定とセットにすることによって、定着農業を急速に導入するきっかけを作り出そうとしていることは、すでに実験として開始されている「プロサバンナ開発イニシアティブ基金(PDIF)」の例からも明らかである[15]。しかし契約栽培は、多くの問題が、過去の例からも指摘されている。その中には、(a)生産物の低価格の買取り、(b)特定の種子や投入財の押し付け、(c)契約不履行(天候不良などによる生産量の低下などによる)の一方的な農民への責任転嫁、(d)債務を梃にした土地没収、がある。これらが起らないような監視体制を政府が取る事ができない場合は、農民が被害を蒙る公算が大きい。

(2013年12月16日)

吉田昌夫(特定非営利活動法人 アフリカ日本協議会)

池上甲一(近畿大学)

舩田クラーセンさやか(東京外国語大学大学院)

米川正子(立教大学)

津山直子 (明治学院大学国際平和研究所)

渡辺直子(特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンター)


[1] NGO・外務省定期協議会ODA政策協議会のサブ・グループとして実施。過去6回の議事要旨は以下のサイトで公開。(現在第4回まで公開中)http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/taiwa/prosavana/prosavana_01.html

[2] 末尾に名前を連ねた以外の専門家数名も分析に参加ている。

[3] ProSAVANA-PD(ナカラ回廊農業開発マスタープラン策定支援)は、プロサバンナ事業の3つの柱の一つで、2011年度186,448,000円(1.86億円)、2012年度132,774,000円(1.32億円)の拠出があった。

[4] 2013年5月以来、同レポート並びにレポート1が、国際NGO・GRAINのサイトで公開されている。http://www.grain.org/article/entries/4703-leaked-prosavana-master-plan-confirms-worst-fears

[5] http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-24.html

[6] コンセプト・ノートは次のサイトに掲載。https://www.prosavana.gov.mz/index.php?p=biblioteca&id=6

[7] 先述、第1回~第5回意見交換会議事要旨より。2013年5月28日の外務省表敬訪問時には、モザンビーク全国農民連合(UNAC)代表に同様の趣旨が説明されている。

[8] 同地域の農民の99.89%が小農によって占められ、その過半数以上が女性である(国家農業センサス2009/10)。

[9] 中身についての現地社会の不安や反発は、「共同声明:モザンビーク北部のProSAVANA事業マスタープラン(案)は最悪の計画を露呈した~市民社会組織は大規模土地収奪に道を開く秘密計画に警告を発する」(2013年4月30日http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-21.html)、「3か国首脳宛てProSAVANA事業の緊急停止を求める公開書簡」(2013年5月28日http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-27.html)。

[10] 詳細は、「第5回ProSAVANA事業に関する意見交換会に向けたNGO質問状」(http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-39.html)、2013年12月6日開催「緊急勉強会 モザンビークで今何が起きているのか~和平合意破棄後の援助、投資のこれからを考える」(http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-62.html)。現在も同国の農業政策(PEDSA農業部門開発戦略計画2011-2020)では、具体的なものとして投資に関する計画(PNISA農業セクター投資国家計画)しか始動していない一方、モザンビーク農業省はUNACが求める「家族農業支援国家計画」の策定は不要とJICAに回答している(第5回意見交換会議事録)。

[11] 第5回ProSAVANA事業に関する意見交換会(2013年7月12日)議事録。

[12] 「環境社会的ガイドライン」の説明に限らず、現地市民社会が要求しているという「コンセプト・ノート」策定にあたって使用された現地調査等の報告書や議事録の非開示についても同様である。これは、世界人権宣言19条、日本が1979年に批准した自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)19条に反する。

[13] 例としてタンザニアの事例があげられる。

[14] 同「G8ニューアライアンス」のモザンビーク政策文書は次のサイト。http://feedthefuture.gov/sites/default/files/resource/files/Mozambique%20Coop%20Framework%20ENG%20FINAL%20w.cover%20REVISED.pdf これへの批判が現地市民社会組織から出されている。http://www.grain.org/bulletin_board/entries/4689-mozambican-youth-and-students-denounce-g8-s-new-alliance アフリカ中(特に南東部地域)の農民・農村開発・女性組織(67ネットワークと9団体)からも批判の声が上がっている。http://www.acbio.org.za/activist/index.php?m=u&f=dsp&petitionID=3

[15] この点は、アフリカ全般で指摘されている一方、プロサバンナについても、最近学術的に批判的検証がなされている。Isabela Nogueira de Morais (2013) “Agricultural systems with pro-poor orientation in Mozambique? ProSAVANA and the forgotten risks of contract farming”, UN/WIDER Conference on Inclusive Growth in Africa: Measurements, Causes, and Consequences Helsinki, 20-21 September 2013.

http://www1.wider.unu.edu/inclusivegrowth/sites/default/files/IGA/Nogueira.pdf

2013年5月17日金曜日

国際シンポジウム (5月29日18時~20時半)~今アフリカ農村で何が起きているのか? 日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による 熱帯サバンナ農業開発(プロサバンナ)を考える~

 

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TICAD V直前 at 横浜・産業貿易センター
国際シンポジウム (5月29日18時~20時半)
市民社会ラウンドテーブル(同日13時半~16時)
      with モザンビーク/ブラジル/国際NGO       

~今アフリカ農村で何が起きているのか?    
    日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による   
  熱帯サバンナ農業開発(プロサバンナ)を考える~
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本年6月1日~3日、第5回アフリカ開発会議(TICAD V)が横浜で開催されます。同会議の目玉として準備されてきたのがプロサバンナ(ProSAVANA)事業です(*注1)。

同事業は、2009年に合意された、「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力によるアフリカ熱帯サバンナ農業開発」の略称で、ブラジルのセラード開発を参照事例として、モザンビーク北部3州の1000万ヘクタール(日本の耕作面積の三倍)を超える地域を対象とした大規模な農業開発計画です。

既に、大々的な宣伝がなされていますが、昨年10月来、現地の農民組織や市民社会組織は、本事業に強い懸念を表明しています。その理由は、当事者である地域農民の主権の軽視、事業全体における目的と手続きにおける不透明さ、アグリビジネスによる土地収用や遺伝子組み換えの導入への危惧などとされています。

さらに、最近明らかになったマスタープラン中間報告の中身の検討から、プロサバンナ事業が、現地に暮らす農民の権利を狭め、アグリビジネスによる容易に土地収用に道を拓くものであったことが、現地並びに国際市民社会の声明により明確になりました。

モザンビーク・国際市民社会声明
【原文・英語】 http://www.grain.org/e/4703
【和訳】mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-21.html

2007-8年の食料価格高騰以来、世界中で土地をめぐる紛争が激化しています。特に、アフリカはターゲットとなり、中でもモザンビークでは世界統計で最多の土地取引がなされています。世界的にも先駆的な土地法(1997年)が農民の手によ
って制定されたモザンビークでもこのような現状にあります。

このような事態を受け、TICAD Vを前に、2月に来日したモザンビークの農民組織UNACの代表らが、再度来日し、問題を訴える他、この問題に長年かかわってきた国際NGO・GRAINの調査責任者、そしてブラジルの市民社会よりセラードとプロサバンナの調査を実施したFASEが来日します。

今アフリカで何が起きているのか、小農はどのように暮らし何を求めているのか、プロサバンナ事業はこの点においてどのような問題を抱えているのか、日本の我々はこれらの問題にどのように関わるべきなのかについて、皆さんと一緒に考
えたく、TICAD V直前の5月29日(水)に、開催地横浜にて、次の二つのイベントを開催する運びとなりました。
ふるってご参加ください。

*注1:同事業の関連資料はこちらのサイトに掲載
→mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-18.html
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①国際シンポジウム 
5月29日(水)18時~20時半@産業貿易センターB102会議室
②市民社会ラウンドテーブル
5月29日(水)13時半~16時@産業貿易センターB102会議室
※16時~17時 記者会見(40分程度)
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以下、案内詳細です。
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①国際シンポジウム
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      5月29日(水)18時~20時半
TICAD V直前 国際シンポジウム  
      with モザンビーク/ブラジル/国際NGO       
~今アフリカ農村で何が起きているのか?    
    日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による   
  熱帯サバンナ農業開発(プロサバンナ)を考える~
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【当日式次第】
<報告>
(1)「世界における【責任を取らない農業投資】と土地争奪問題 ~アフリカ・熱帯サバンナ地域を中心に」  Devlin Kuyek (国際NGO・GRAIN、カナダ)
(2)「ブラジルの熱帯サバンナ地域(セラード開発)の課題」  Sergio Schlesinger(ブラジルNGO・FASE、ブラジル)
(3)「モザンビーク農民組織からみたプロサバンナ事業の問題  ~小農の権利から」  Augusto Mafigo(代表) + Vicente Adriano  
 (UNAC全国農民組織、モザンビーク)

<コメント>
・日本市民社会(津山直子/動く→動かす(GCAP JAPAN)代表)
・事業対象地市民社会(Anttonio Muagerene 
 ナンプーラ市民社会プラットフォーム 代表)
※当日は同時通訳(日英)が入ります。
 

GRAIN http://www.grain.org/
FASE http://www.fase.org.br/
UNAC http://www.unac.org.mz/

============イベント概要========
【日時】2013年5月29日(水)18時~20時半
【会場】産業貿易センターB102会議室
http://www.sanbo-center.co.jp/rr/index.html  
住所:横浜市中区山下町2番地 Tel : 045-671-7111
<アクセス>みなとみらい線日本大通り駅(3番出口)徒歩3分
http://www.sanbo-center.co.jp/ci/access.html
【定員】100名
【参加費】500円(資料代)
【主催】(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)、
(特活)アフリカ日本協議会(AJF)、
(特活)オックスファム・ジャパン、
(特活)WE21ジャパン
【賛同団体】認定NPO法人 FoE Japan、
 (特活)アジア・アフリカと共に歩む会(TAAA)、
 (特活)アフリカ地域開発市民の会(CanDo)、
 NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)
 ATTAC Japan、全日本農民組合連合会、
  (一般財団法人)北海道農民連盟、
 アフリカ理解プロジェクト
(特活)「環境・持続社会」研究センターJACSES
 (株)オルター・トレード・ジャパン(ATJ)
(特活)APLA(Alternative People's Linkage in Asia) 
 No! to Land Grab, Japan
 アジア農民交流センタ-(Asian Farmers' Exchange Center/AFEC)
 (一般財団法人)地球・人間環境フォーラム
 (特活)国際協力NGOセンター(JANIC)
 (特活)サパ=西アフリカの人達の支援をする会(SUPA)
 (特活)ハンガー・フリー・ワールド(HFW)
 (一般財団法人)CSOネットワーク
(5月14日現在18団体、募集中)
【協力】モザンビーク開発を考える市民の会
【お申込】http://ngo-jvc.info/ZigHEd
※できるかぎり上記URLよりお申込ください。
 メールでお申込の際は、prosavana529@hotmail.co.jp
  宛てに、件名を「5月29日プロサバンナ国際シンポ参加申込」
  としてお申込ください。
【お問合せ】JVC南アフリカ事業担当 渡辺
Email:prosavana529@hotmail.co.jp Tel: 03-3834-2388
URL:http://www.ngo-jvc.net
=============================

②市民社会ラウンドテーブル
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5月29日(水)13:30~16:00
(16時より記者会見)
「プロサバンナ事業についての3か国・国際市民社会会議」
****************************

急激なグローバル化による農民への影響は、アフリカに留まりません。日本でも、アジアでも、南米でも同様です。
また、日 本のODAを通じた農業投資や土地問題は、世界各地で発生してきました。これらの問題について、モザンビーク、ブラジル、 日本の3か国、そして国際市民社会は何をすべきか、を話し合います。「農業投資」、「土地争奪」、「農民主権」、「食料 主権」などをキーワードに、議論し、今後のローカルあるいは グローバルな行動に繋げます。

=======イベント概要==========
【日時】2013年5月29日(水)13時半~16時
       (*16時から記者会見)
【会場】産業貿易センターB102号室
 http://www.sanbo-center.co.jp/rr/index.html  
住所:横浜市中区山下町2番地 Tel : 045-671-7111
<アクセス>みなとみらい線日本大通り駅(3番出口)徒歩3分
http://www.sanbo-center.co.jp/ci/access.html
【収容人数】50名
【主催】(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)、
(特活)アフリカ日本協議会(AJF)、
(特活)オックスファム・ジャパン、
(特活)WE21ジャパンJVC
【協力】モザンビーク開発を考える市民の会
【お申込】http://ngo-jvc.info/14MNEAc
(締切、5月24日(金)正午)
※できるかぎり上記URLよりお申込ください。
※メールでお申込の際は、prosavana529@hotmail.co.jp
 宛てに、件名を「5月29日プロサバンナ市民社会ラウンド
 テーブル参加申込」としてお申込ください。
※NGO関係者のみ受け付けます。一般の方はシンポジウムに
 ご参加ください。
※シンポジウムに参加されない方で資料をご希望の場合は
 500円をご負担下さい。
※記者会見に参加するメディアで傍聴希望する場合はその
 旨お申込み下さい。
【お問合せ】JVC南アフリカ事業担当 渡辺
Email:prosavana529@hotmail.co.jp Tel: 03-3834-2388
URL:http://www.ngo-jvc.net
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2013年5月2日木曜日

モザンビーク北部のプロサバンナ事業は史上最悪

共同声明(PDF) 英文

マスタープラン案のリーク

秘密主義の計画が大規模土地収奪をもたらすと市民社会組織らが警告

2013年4月29日

市民社会組織は、リークされた最新バージョンのプロサバンナ事業のマスタープラン案(20133月版)をついに見ることができた。それにより、日本・ブラジル・モザンビーク政府が、モザンビーク北部で大規模な土地収奪を可能とする道を拓こうと秘密裡に企てていることが判明した。モザンビークのいくつかの団体とその国際パートナーは、考察とともにこのマスタープランを公にする。

プロサバンナは、モザンビーク北部の農業開発を支援する日本・ブラジル・モザンビークの三角協力事業である。市民社会にリークされたマスタープラン案によると、同事業はナンプーラ州、ニアサ州、ザンベジ州の3州19郡の1000万ヘクタール以上の面積をカバーするという。この地域には400万人以上が住み、農業を営んでおり、事業関係者にナカラ回廊地域と呼ばれてきた。

プロサバンナ事業立案から現在までのすべてのプロセスが、透明性、公な協議、参加を全く欠くものとして特徴づけられる。アグリビジネス企業が、ナカラ回廊でのビジネス機会を調査するために政府代表団に含まれている一方で、影響を受ける地域に住む400万の人々は、この事業やプランの狙いに関する情報を得ていない。三つの政府は、このマスタープラン案およびこれ以前のバージョンのプランを公にすることを拒否してきた。

このマスタープラン案は、多国籍アグリビジネス企業と関係の深い外国コンサルタントのチームによって作成されているが、この中にはプロサバンナ事業対象地域で既に土地を獲得している者も含まれる[1]。対象地域の住民との意味ある協議はなく、同プランは住民のニーズ、歴史、知識、将来への希望を考慮していない。また、地元の農業や食料システムを尊重しないものである。

プロサバンナは、開発援助事業として提示されてきたが、入手したマスタープラン案を見ると、モザンビークの農業を企業が乗っ取るビジネス計画であることが明らかである。

マスタープランは小規模農家にとって何を意味するか?

プロサバンナ計画の推進者は、同事業について小農を支援するプログラムだと言い続けてきた。しかし、マスタープラン案では、アグリビジネスを小農がどう支援するかしか考えられていないことが分かった。それは、主として次の二つの方法で実現されようとしている。

1. 伝統的移動輪作農法や土地管理の実践を潰し、農民を、商業作物、化学肥料・農薬の投入、私的土地占有権に基づく集約農業に追いやる。

マスタープラン案では、伝統的農業の有効性について何も分析していないにもかかわらず、「移動農法から定着農業(settled farming)への移行が緊急に必要」で、「マスタープランの鍵となる戦略」としている。さらに、「移動農法の実践の撲滅」アクションまでも求めている。

農民が伝統的な農業を捨てるのに抵抗することを念頭におき、いくつかの策が提案されている。集約農業の効果をみせるため「リーダー的農家」を育成し、「速効性の効果が見える化学肥料への補助金システム」を導入したり、もっとも注目すべき点としては、このような転換を行う農家に土地占有権(DUATs)を与えると書かれていることである。

これらの集約農業を促進する方策の真の目的は、土地を私有化し、外部からの投資が土地を得やすくすることにある。農民を(DUATsにより)定められた土地の境界線内に追い込むことで、投資企業が取得可能な土地を明確にし、州政府が企業向けの土地銀行(land bank)を設立することを可能にするという。また、マスタープラン案は、投資企業が土地を取得するにあたって、コミュニティとの交渉無しで済ませることを認めている。マスタープラン案にある「小・中農家土地登録」の項目では、その目的が「大規模農業、民間企業、中農による農業促進のための区画を明確にする」ことにあるとはっきり述べられている。さらに、「小農と新たな投資企業の間の協力・統合の環境をつくる」ための手段とまで書かれている。

2. 農民を企業的農業と加工業者との契約農業に追いやる

マスタープラン案では、ナカラ回廊をゾーンに区分けし、それぞれのゾーン内で栽培する作物、栽培手法、栽培者(小農、中農、企業)を定めている。ゾーン区分に基づき、商品作物栽培プロジェクトがいくつか示され、ある区分には大規模企業農業のみが定められており、残りは、大農・中農の混合や、小農による契約栽培方式などである。

同プランで提案されている委託契約農業は、この地域の小農らの生活を改善しないだろう。むしろ、彼らが作付する種子から生産物の販売までのすべてを、一つの企業に依存させることになるだろう。同プランで提案された委託契約農業プロジェクトの一つでは、投資企業は年率30%の収益を得る一方で、小農は5.5ヘクタールの内5ヘクタールを契約下でのキャッサバ栽培に使うことが強制される。

企業天国

マスタープラン案は、企業が投資によって20~30%という非常に高い年間収益を獲得できるビジネスチャンスをいくつか想定している。投資企業は、日本およびブラジルの両政府と投資家が出資するという「ナカラ・ファンド(Nacala Fund、20億ドル)」を利用できる。リークされたマスタープランでは、同ファンドの詳細は記載されていないが、他の筋からの情報によると、同ファンドは投資家保護の天国であるルクセンブルクで登録され、「アフリカ・オポチュニティ・ファンド1:ナカラ(Africa Opportunity Fund 1: Nacala)」として登録されるという[2]

マスタープラン案で示されるいくつかのプロジェクトの中には、投資家に広大な土地を提供するものも含まれている。例えば、ニアサ州マジュネ郡で計画されている「統合的穀物クラスター」は、縦断的に統合した1つの会社によって運営される。この会社は、6万ヘクタールに及ぶゾーン内で、9つの5,000ヘクタールの農場を経営し、主に輸出用に、トウモロコシ、大豆、ヒマワリを輪作栽培する。マスタープラン案によれば、「事業の収益性は高く、内部収益率は20.3%と見積もられ、9年で資本回収(償却)できる」という。同プランでは、こうしたプロジェクトを回廊の各地で展開し、増やしていくことを求めている。

企業は、マスタープラン案で提案されている数箇所の経済特区(SEZs)からも利益を得る。企業はこうした特区で納税および関税が免除され、さらにオフショア金融協定によって利益を得ることができる。これらの特区は、プロサバンナ事業が加工および貿易施設として計画する地域内に置かれる。しかし、これらの措置は、輸出型農企業の発展によって本来政府にもたらされるはずの収益を大幅に減じることになろう。

プロサバンナ事業の計画策定は2009年に開始されたため、海外投資家および現地の提携業者らは、事業予定地に既に膨大な面積の土地を取得しており、土地を巡って地元コミュニティとの間でたびたび争いが生じている。マスタープラン案の狙いは、この地域にさらに多くの投資を呼び込むことにあり、それは言うまでもなく土地紛争をさらに深刻化させることになる。

こうした争いの激化についてマスタープラン案が提案している主たる解決策は、「プロサバンナRAI(責任ある農業投資)ガイドライン(ProSAVANA Guidelines on RAI )」である。このガイドラインの中核は世界銀行が作成したRAIの7原則(Responsible Agricultural Investment)に基づくチェックリストであり、農民組織および市民社会組織から幅広く批判されているものである。「プロサバンナRAIガイドライン」は、ナカラ回廊へのアグリビジネス投資促進のために2013年8月までに発表される「民間投資のためのデータブック(Data Book for Private Investors)」の付属書とされる。

これらは、弱いガイドラインであり、その履行は任意である。マスタープラン案は、土地収奪からコミュニティを本当に守れるような新しい法律または規制を求めていない。同プランには、「ナカラ回廊への農業投資に関心を持つ民間企業は、企業内の行動規範や任意の自主規制に加え、これらの原則の遵守がリクエストされるだろう」と記されているだけである。

このマスタープランの結果として何が起こるか

現行のマスタープラン案を進めることによって、小農による農業は破壊されるであろう。それは、農民の種子体系、地元の知識、現地の食文化、および伝統的な土地管理の一掃を意味する。同プランは、農民を現在の土地から追い出すか、一定のわずかな土地に押し込めることになるだろう。その土地では、農民らは企業向けの契約栽培をさせられ、借金して種子、肥料および農薬の代金を支払うよう義務づけられるだろう。土地占有権を取得する小農においても、大企業や大規模農家のために即座に土地を失うという危険にさらされることになるであろう。

マスタープラン案の7クラスターのうち1つだけが、小農向けのもので、家族経営の食料生産を目指したものになっている。さらには、かつて失敗した緑の革命と同じ開発モデルが提案されているだけである。このマスタープラン案では、ナカラ回廊の小農のニーズやキャパシティが全く考慮されておらず、その活力も取り入れられてはいない。

本マスタープラン案の最大の受益者は企業である。土地および生産を支配し、生産された食料の取引を管理する。生産された食料は道路、鉄道およびナカラ港から輸出されるが、それらのインフラは、モザンビークと日本から提供された公的資金により、他の海外企業によって整備される。海外の種子、農薬および肥料会社は、企業型農業のアフリカへの大規模な拡大によって大儲けするであろう。

モザンビーク人にも、この事業によって利益を得る人もいる。例えば、ポルトガルで最も富裕な家族は、モザンビーク大統領の友人および家族が管理する国内企業ならびにブラジル最大の法人農企業1社と提携して、既にモザンビーク北部で土地を取得し、大豆を栽培するための合弁事業を立ち上げている。しかし、これらの利益とは、一般のモザンビーク人を犠牲にした上で成り立つものである。

マスタープラン案を見た我々は、プロサバンナ事業を中止させ、食料主権のために闘っているモザンビークの小農および人びとを支援するという決意を新たにする。

署名団体:

Justiça Ambiental, JA!/ FoE Mozambique (Mozambique)

Forum Mulher (Mozambique)

Livaningo (Mozambique)

LPM - Landless Peoples Mouvement (Member of Via Campesina - South Africa)

Agrarian Reform for Food Sovereignty Campaign (Member os Via Campesina - South Africa)

AFRA - Association for Rural Advancement (South Africa)

GRAIN

Friends of the Earth International (FoEI) (*The world's largest grassroots environmental federation with 74 national member groups and more than two million individual members.)

National Association of Professional Environmentalists (NAPE) / Friends of the Earth (FoE) Uganda

FoE Swaziland

Amigos da Terra Brasil / FoE Brazil

Movimiento Madre Tierra, Honduras

NOAH Friends of the Earth Denmark

GroundWork (South Africa)

Amigos de la Tierra España / Friends of the Earth Spain

Environmental Rights Action / FoE Nigeria

Sahabat Alam Malaysia/ FoE Malaysia

SOBREVIVENCIA, Friends of the Earth Paraguay

CESTA, FoE El Salvador

Earth Harmony Innovators (South Africa)

Ukuvuna (South Africa)

FoE Africa

Kasisi Agricultural Training Centre (Zambia)

( 2013年4月29日現在)


[1] マスタープランは、ゼツリオ・ヴァルガス財団(FGV)のコンサルタントのグループによって書かれた。彼らは、Galp Energia, Vale, Syngenta, Petrobras, ADM といったアグリビジネス企業のコンサルタントでもあり、Vigna Projetosとしても知られるVigna Brasilの幹部である。Galpは、ポルトガルの Amorim ファミリーに所有され、モザンビーク大統領ファミリーが関係する投資会社Intelec との合弁事業であるAgroMozを通じて、プロサバンナ対象地域での大規模な大豆栽培事業に投資している。Vigna Brasilは4I.Greenという会社と同じ所在地にあり、4I.Greenは、ナカラ回廊の大規模アグリビジネス・プロジェクトの主要な資金源であるナカラ・ファンドの実務責任を担っている。

[2] http://www.g15.org/Renewable_Energies/J2-06-11-2012%5CPRESENTATION_DAKAR-06-11-2012.pptxを参照。

2013年2月13日水曜日

2/28(木)18時~20時 オープン・セミナー 「モザンビーク北部における農業と食料安全保障~モザンビーク農民組織代表をお招きして」

 

【オープン・セミナーin東京大学(駒場)】
【日本アフリカ学会関東支部例会】【HSPセミナー】

モザンビーク北部における農業と食料安全保障

~モザンビーク農民組織代表をお招きして~

 

日時:2013年2月28日(木)18時~20時

場所:東京大学駒場キャンパス 18号館一階ホール

http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_17_j.html

京王井の頭線 駒場東大前下車徒歩3分

共催:日本アフリカ学会関東支部(例会)、東京大学「人間の安全保障」プロ
グラム、(特活)アフリカ日本協議会(AJF)、(特活)日本国際ボランティア
センター(JVC)、(特活)オックスファム・ジャパン、No to Land Grab, Japan!
協力:モザンビーク開発を考える市民の会
定員:100名(事前申し込みが必要です)
 以下の申し込みフォームに必要事項を記入してください。
 定員に達した段階で申し込みを締め切ります。
 ※ 申し込みフォーム
 https://docs.google.com/spreadsheet/viewform?fromEmail=true&formkey=dDZOUHNKNk9ScXZKbWVZQjVGdGlDakE6MQ
使用言語:日本語(ゲストは英語でスピーチし、会場用に日本語で逐次通訳)
お問い合わせ先:(特活)アフリカ日本協議会
電話 03-3834-6902/e-mail info@ajf.gr.jp 

当招聘事業についてはこちらhttp://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-3.html

<背景情報>                                                                                      最近日本でも、モザンビーク北部が注目される機会が増えてきました。同地域
は、気候・水・土地に恵まれ、モザンビークにおける農業の中心地であり、同国
の食料・輸出産品の生産地として重要な役割を果たし、戦後復興にも大きく貢献
してきました。そして現在、外国企業による投資だけでなく、ドナーによる援助
対象地としても急速に脚光を浴びています。
しかし、モザンビーク北部の農業の担い手の圧倒的多数は、長年にわたり地域に
暮らす小規模農民です。これらの小農の多くは、家族のため多種多様な日々の食料を生産しながら、余剰を市場に売り出すなどして生計を立てています。最近
は、気候変動による小雨や洪水、グローバル化に伴う農業投資の流入など、様々
な課題に直面しつつあります。
このように注目を集めるモザンビーク北部ですが、これまで日本には、同地域で
の農業・農村開発支援の実績はほとんどなく、かつ研究蓄積も不十分でした。そ
のため、今回モザンビーク最大かつ老舗の農民組織であり、全国2,200の農民協
会・組合の連合組織・UNAC(全国農民組織)の代表者らをお迎えし、モザンビー
ク北部を取り巻く環境の変化とこれら小農の農的営みについてお話しして頂きます。
また、同国で多様な環境問題に取り組み、国内外でその活動が高く評価される
JA(Justica Ambiental)から、環境と女性/ジェンダーの視点に基づく報告も行
われます。コメンテイターは、長年アフリカ農村地域での調査や研究に携わってきた吉田昌夫さんです。
本オープン・セミナーは、モザンビークやアフリカ、農民主権、食料問題などに
関心を寄せる研究者やNGO、実際に事業等に取り組む政府関係者や実務者、そして一般市民や学生を対象としています。お誘いあわせの上ご参加ください。
なお、申込みが必要となっております。

<当日の進行>
(1)趣旨説明(5分)(座長:西川芳昭さん(コミュニティコミュニケーショ
ン・サポートセンター テクニカルアドバイザー/名古屋大学教授)
(2)報告1(30分):「モザンビーク北部における農業と食料安全保障~小農の
視点から」
・アウグスト・マフィゴ(代表/全国農民連盟(UNAC)
・ヴィセンテ・アドリアーノ(アドボカシー&連携担当/全国農民連盟UNAC)
(3)報告2(20分):「モザンビーク北部農村における食料安全保障~女性./
ジェンダー、環境の視点から」
・シルヴィア・ドロレス(Justica Ambiental)
(4)コメント(各10分):
・吉田昌夫さん((特活)アフリカ日本協議会食料安全保障研究会/元中部大
学・日本福祉大学教授/日本アフリカ学会会員)
・日本政府関係者(調整中)
(5)質疑応答&オープンディスカッション&ラップアップ(45分)

<報告者の紹介>

UNAC(全国農民連盟) http://www.unac.org.mz/
1987年に設立された小農を代表し、その権利を守るためにできた農民組織です。
86,000名以上の個人会員、2,200の協会および共同組合、83つの郡レベルの連
盟、州レベルでは7つの連盟と4つの支部を擁しています。UNACは、2012年10月11日には、モザンビーク北部地域を対象とした「日本・ブラジル・モザンビーク三
角協力による熱帯サバンナ農業開発プログラム(略称プロサバンナ)」に対する
声明を発表しています。【ポルトガル語】http://www.unac.org.mz/index.php
/7-blog/39-pronunciamento-da-unac-sobre-o-programa-prosavana
【日本語】http://farmlandgrab.org/post/view/21204

Justica Ambiental(JA)
モザンビーク人自身による主体的な環境保護団体として、同国内の様々な環境問題に取り組み、世界的に高く評価されている団体です。特に、「ダム問題」「違
法伐採問題」では、身の危険を顧みず重要な役割を果たしてきました。違法伐採
問題については、日本のTBSのNEWS23での特集番組に協力しています。「変貌のモザンビーク~昇龍開発」http://www.tbs.co.jp/houtama/last/071118.html
また、JAは、JICA事業「アフリカ・アジアNGOネットワーキング事業」のため2007年に来日しています。http://www.jica.go.jp/press/archives/jica/2007/071015.html

また、同団体もプロサバンナ事業について声明を発表しています。
【日本語版】http://landgrab-japan.blogspot.jp/2013/01/justica-ambientalfoe.html

<関連情報>
両団体は土地問題にも取り組んでおり、成果の一つとして以下の報告書を発表し
ています。
Justica Ambiental & UNAC. (2011). Lords of the land - preliminary
analysis of the phenomenon of landgrabbing in Mozambique. Maputo,
Mozambique.
http://www.open.ac.uk/technology/mozambique/pics/d131619.pdf

<プロサバンナ事業>
JICAが2009年より実施する「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による熱帯
サバンナ農業開発プログラム」の通称。
http://www.jica.go.jp/project/mozambique/001/activities/index.html

※ 来日するモザンビーク全国農民連盟(UNAC)の声明、モザンビーク研究者の
舩田クラーセンさやかさんの朝日新聞「私の視点」はじめ、関連資料を以下の
ページで読むことができます。
 http://www.arsvi.com/i/2prosavana.htm

<農地は誰のものか>

モザンビークカテゴリー

2/27 ~アフリカの課題に応えるTICAD Vの実現に向けて~ 食料安全保障問題と『農業投資』が引き起こす土地紛争

 

議員会館学習会

モザンビーク農民組織・市民社会代表を迎えて

~アフリカの課題に応えるTICAD Vの実現に向けて~

食料安全保障問題と『農業投資』が引き起こす土地紛争

http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-4.html

日時:2013年2月27日(水)11時~12時  

※ 要事前申し込み 2月25日締め切り 

議員会館内へ入るために入館票が必要となりますので、参加希望者は以下を2月25日正午までに下記連絡先までお知らせください。
 1)お名前、2)当日連絡可能な連絡先、3)ご所属

会場:参議院議員会館B104 (入館証70枚まで発行)

<背景説明>

今年6月、横浜市で「第5回アフリカ開発会議(TICAD V)」を開かれます。本会合は、1993年の第一回開催以来、我が国の対アフリカ関係の大方針を決める上で重要な役割を果たしてきました。一方、昨今は中国、韓国、インドなど、アジアの新興ドナーも「アフリカ・サミット」を開催するようになり、TICADは新たな
存在意義の模索を迫られています。
近年、アフリカ開発において最も大きな注目を集める課題の一つに、「農業投
資」と「土地争奪」の問題があります。2007年の世界的な食料価格高騰をきっか
けに再び増加に転じたアフリカの飢餓問題。これへの対応策として、アフリカ農
業への国際的な投資・支援の必要性が叫ばれれてますが、対アフリカ「農業投
資」の中には、外国への食料調達を目的に、現地農民から土地を収用してしまう
ものが含まれており、生計手段を奪われた農民による大きな抗議行動が各地で発生、政情不安の引き金になっているケースもあります。
そのような中、日本もブラジルとの協力のもと、モザンビークに対する大規模な農業開発支援を計画中ですが、現地の農民組織やNGOが、当事者への十分な説明がないまま計画が進められていることに強い懸念を表明しています。
国際社会のアフリカ開発に向けた基本姿勢が問われる中、TICADは「アフリカの
人びとためのアフリカ開発」の実現に向けて、どのようなリーダーシップを示すべきなのか。
本セミナーでは、緊急来日したモザンビークの農民団体の代表の声を聞くと共に、農業投資と土地の権利に関する国際的な規範作りの現状について報告します。

主催:(特活)アフリカ日本協議会(AJF)、日本国際ボランティアセンター(JVC)、(特活)オックスファム・ジャパン
協力:モザンビーク開発を考える市民の会
申込・問合せ:(特活)アフリカ日本協議会  電話 03-3834-6902          e-mail info@ajf.gr.jp

2013年1月29日火曜日

モザンビークにおける国際協力事業が引き起こす土地争奪~

財団法人 地球・人間環境フォーラム  「グローバルネット」 265号(2012.12)に掲載した記事に加筆修正したものです。またその後に補足記事を掲載しています。

ランドラッシュに巻き込まれる農村社会 ~モザンビークにおける国際協力事業が引き起こす土地争奪~

開発と権利のための行動センター  青西靖夫(あおにし やすお) 

 2012年10月11日、モザンビークの農民組織である「全国農民連盟(UNAC)」は、ブラジル-モザンビーク-日本の三角協力という形で実施されつつある「プロサバンナ・プロジェクト」について声明を発表。この事業に関する情報の不足、立案プロセスにおける透明性の欠如、農民組織の排除などを大きな問題であると訴えるとともに、この事業が実施された場合には、土地収用や移転によって土地なし農民が産み出されるとともに、社会的動乱の頻発、生計維持手段の減少による農村の貧困化などの問題が生じるであろうと告発した。[1]

 本プロジェクトは、20年以上にわたるブラジルのセラード開発の経験をモザンビークの開発にいかそうと日本政府が積極的に進めるもので、 2009年7月のラクイラ・サミットで当時の麻生総理とブラジルのルーラ大統領の間で合意したことに始まる。これまでに「モザンビーク国日伯モザンビーク三角協力による熱帯サバンナ農業開発協力プログラム準備調査」[2](2009年9月~~2010年3月)、「ナカラ回廊農業開発研究・技術移転能力向上プロジェクト」[3](2011年~)、「ナカラ回廊農業開発マスタープラン策定支援プロジェクト」[4](2012年~)などを実施してきている。

 ここでは農民組織の声明を踏まえつつ、このプロジェクトについて詳細に検討してみたい。

■プロジェクトのさまざまな問題点

①透明性の欠如

 このプロジェクトの不透明性は単に農民に情報が発信されないことに起因するだけではなく、プロジェクトの立案・実施プロセスに不透明な部分が内在されていることによると考えられる。

準備調査報告書[2]によると、「『準備調査』は、国道13 号線沿いに、ナンプーラ州並びにニアサ州およびザンベジア州の一部を調査対象地域とした」とされている。しかしながら、この調査に参加したブラジルの農業研究機関であるEMBRAPAは、「商業規模(commercial scale)の農業生産投資をも可能にすべく」、調査の最終段階で調査対象地域外のナカラ回廊の北西部の640万ヘクタールの土地をプロジェクト対象地に組み込んだのである。([2]の6章及び付属資料を参照のこと)

20130129 fig1 

 

 

 

majune

(緑が当初の調査地域、右の地図のオレンジがJICAのプロジェクト実施に伴って追加されたことが把握される地域。黄色で囲んだ地域は追加されたと思われるが、現状での位置づけが把握できない。)

 現在のモザンビーク全体の耕作面積よりも大きく、日本の農地面積より広大な土地を、誰がどのように利用しているのかも把握もしないままに、「機械化農業に適している」と記載された外交文書に国際協力機構(JICA)は調印したのである!

 このように、このプロジェクトにはブラジル政府の意向が大きな意味を持っており、日本政府やJICAの意図を超えて動く可能性を秘めていることを理解しておく必要がある。それだからこそ、モザンビーク農民だけではなく、私たち日本国民も、納税者としてこのプロジェクトに対する監視を怠ってはならないのである。

 それ以降、事前調査では含まれていなかった、北西部に位置するンガウマとリシンガがプロジェクト対象地域に含まれ、「技術移転プロジェクト」ではナンプラの試験場だけではなく700kmも離れた(東京-青森間に相当する!)リシンガの試験場も対象に加えられた。これがどのようなプロセスで追加されたのも定かではないが、果たして現実的にマネージできるのかという疑問も生じる。

② 情報の不足

 農民側の情報不足はこのプロジェクトがそもそも農業開発の主体となるべき地域在住の農民ではなく、海外の投資家の方を向いていることから起きていると考えられる。それは国際協力機構(JICA)による「マスタープラン策定支援」に関するコンサルタント会社向けの業務指示書[5]を検討することで明らかとなる。

 現地の農民組織が情報の不足を訴える一方で、JICAはコンサルタント会社に次のように求めているのである。

「本業務の実施に当たっては『モ(モザンビーク)』国及び周辺諸国への投資に関心を持つ我が国民間企業と十分な意見交換を行い、その意向を各種計画策定に反映させる」、「Quick Impact Projectの形成に際してはナカラ回廊地域の農業開発に関心を示す本邦企業から事前にニーズを聴取し、結果を反映させること」

 農業開発計画の策定にあたって重要なのは地域の農民たちの声ではなく、投資に関心を持つ日本企業の声なのである。業務指示書のどこにも、農民の声を十分に反映させるようにという記述はない。農家の経済状況や土地利用などは既存データを収集して済ませ、農民組織の調査は現地で再委託、現地でのステークホルダー会議は関係機関、ドナー、民間セクターやNGOを含め50人程度集めればいいという指示であり、農民の声を聞こうという意欲はどこにも感じられない。

③農地収奪は起こるのか?

 現地の農民組織は「プロサバンナは数百万ヘクタールの土地を求めているが、実際にはこれらの土地は移動耕作を行う農民によって利用されており、利用できる土地はない」と述べている。準備調査報告書も「当初のプロジェクト予定地域には大規模農業を展開する農地はない」と記載している。しかし上述したように、「商業規模の農業生産投資をも可能にすべく」、調査地域外であった640万haヘクタールがプロジェクトの対象地域に加えられた。これは明らかに農地収奪への第一歩である。

 また2011年にはモザンビークの農業大臣はブラジルの投資家に対して、「北部4州において、600万ヘクタールの土地を、ヘクタールあたり9ユーロで50年にわたるコンセッションで提供できる」と伝えたと言われ、ブラジルの投資家も歓迎の意向を示していた。[6] 2012年4月の日本・ブラジルの官民合同ミッションにおいても、日本の商社マンはブラジル側の投資意欲に圧倒されたという。アフリカのビア・カンペシーナ(農民組織)は「このプロジェクトはアフリカでも最も大きく野心的な農地収奪であろう」と批判しているが、農地収奪は日本側のコントロールできないスピードで展開する危険性がある。

④「無責任な農業投資」と私たち

 現地農民組織は土地なし農民の発生や生計維持手段の減少による農村の貧困化などの可能性を指摘している。日本政府は海外農業投資に伴ってこのようなことが起きないようにと「責任ある農業投資(RAI)」原則の確立を進めてきたはずであった。しかし今回のプロジェクトの中でRAI原則を実現するための方策が検討されているとは言いがたい。土地への権利、食料安全保障の確立、透明性の確保、協議と参加、これらの権利を農民に保証しようという配慮を読み取ることはできない。その一方で業務指示書では「住民移転計画の作成」すら求めているのである。本来、先にやるべきことは上記のような権利を保証するための方策を検討することであろう。

 このプロサバンナ・プロジェクトは日本国民への「食糧安全保障」という名目で正当化されている。日本の商社は生産にも土地取引にも直接関与せずに流通面での支配をもくろんでいると思われる。

 しかし日本国民が本当にこのようなプロジェクトを求めているのであろうか。内戦から解放されたモザンビークの「開発」のために、農民を土地から排除することを誰が願っているだろうか。

財団法人 地球・人間環境フォーラム グローバルネット 265号(2012.12)に掲載した記事に加筆修正したものです。

補足記事  2013年1月29日

慣習法的農地保有を保護するために

日本政府が積極的に進める「責任ある農業投資原則(RAI)」は次のような5原則からなる

  1. 土地及び資源に関する権利の尊重:既存の土地及び付随する天然資源に関する権利は認識・尊重されるべき。
  2. 食料安全保障の確保:投資は食料安全保障を脅かすのではなく、強化するものであるべき。
  3. 透明性、グッド・ガバナンス及び投資を促進する環境の確保:農業投資の実施過程は、適切なビジネス・法律・規制の枠組みの中で、透明で、監視され、説明責任が確保されたものであるべき。
  4. 協議と参加: 投資によって物理的に影響を被る人々とは協議を行い、合意事項は記録し実行されるべき。
  5. 責任ある農業企業投資:投資事業は法律を尊重し、業界のベスト・プラクティスを反映し、経済的に実行可能で、永続的な共通の価値をもたらすものであるべき。
  6. 社会的持続可能性:投資は望ましい社会的・分配的な影響を生むべきであり、脆弱性を増すものであってはならない。
  7. 環境持続可能性:環境面の影響は計量化され、リスクや負の影響の最小化・緩和を図り、持続可能な資源利用を促進する方策が採られるべき。

 またローマで2012年に開催された第38回世界食料安全保障委員会(CFS)において、「国の食料安全保障における土地・漁業・森林の保有の権利に関する責任あるガバナンスについての任意自発的指針」が承認された。この指針は、土地、森林、漁業において所有あるいはアクセスできる権利を各国政府が保護するためのものである。この中で「非公式のシステムにおけるものであっても、正当な保有権を公認し保護すること」定められている。[7]

 プロサバンナプロジェクトは、RAIのモデルとして位置づけられているが、当然のことながら、FAOの指針にも沿うものであることが求められている。

 しかしモザンビークは慣習法的な土地利用が広範に広がっており、慣習法的な土地所有の上で、プロジェクトを展開していくには多々困難が待ち受けているものと思われる「民間投資を受け入れてプロジェクトを実施」という前に、「慣習法的な土地保有」をいかに承認し、保護していくかというのは非常に難しいテーマである。

 以前JICAに送付した質問書への回答で「国有地である」といった安易な回答があったが、そういうことでは対処できないのである。[8 ]

 ところが2001年に刊行された南部アフリカ援助研究会の報告書には、懸念される点が適切に指摘されているのである。(モザンビーク 本編P40- [9 ] )

 以下一部抜粋

2-2 農地政策

約8,000 万 ha の国土のうち、1,800 万 ha ほどが農耕に適している土地である。---土地に限ってはいまだに国有のままである。しかし土地の保有権は認められており、農村では伝統的首長が慣習的秩序に従って土地を配分することが一般的である。---従って、農地保有権(land title)の確保・安定化が当面の課題となる。1987 年に小農民保護を目的とする新しい条項が土地法に追加され、伝統的に耕作していた土地に対する小農民の権利を自動的に認めることになって、小農民は土地保有権証書を取得する権利が与えられた。しかし、その実績は上がっていない。---、土地の保有権申請の登録システムがきわめて貧弱であることを認めている

 この場合の論点は3 つあるだろう。共有地の配分という慣行への親しみ、申請書類の事務処理能力、非識字者や社会的弱者に対する権利侵害の3つである。第1 の共有地の配分についてはすでに述べたが、この慣行は個人分割を前提とする土地保有権になじまない。また技術的にも、境界の確定や個人への割付が利害と関連して大変難しい。あるいは、農地、放牧地、薪炭林用地などの区分も問題となりうる。第1の問題をクリアーして申請書類を提出したとしても、迅速かつ適切に処理される保証はない。そこで、1997 年の土地法に基づく農村向けの規制が1998 年12 月に承認され、その適切な実行と強化が優先度の高い政策に位置付けられることとなった。---

最大の課題は3 番目の問題である。いくら、土地法が小農民の土地アクセスに対する伝統的権利を認定すると言っても、彼ら/彼女らが必ずしもその存在を知っているとは限らないし、知っていても申請手続きを進める術を持つとは限らない。また、土地法が伝統的権威の介入を認めているので、女性などの社会的弱者が不利に扱われる危険性もないわけではない。さらに、民間資本などによる土地購入が、従前の耕作者である小農民を追い出しているケースも散見される。そこで、少なくとも農地保有権確保のための識字教育やその仕組みの広報キャンペーンが、早急に実践されるべきである

2-6-3 土地改革に関する事務処理の迅速化支援と農民「啓発」

1997 年土地法による土地保有権の法的保障は小農民の存続基盤としてたいへん重要であるが、その存在すら知らない農村住民たちが圧倒的に多いと推測される。いったん土地保有権が確定されてしまうと、その変更には多大な努力を要する。そこで、農村住民に対する情報提供・啓発・識字教育は緊急度の高い優先事業に位置づけるべきである。同時に、州レベルの事務処理の迅速化を図る支援手段を考慮する必要があろう。

 大変重要な指摘である。今回のようなプロジェクトを行うに当たって、RAIの観点からもFAOの指針の観点からも、上の指摘について十分配慮する必要がある。指摘されているような点について現状が把握され、そこへの対策が組み込まれることない「農村開発プロジェクト」は存在しないと考えるべきであろう。

 そこでまず下記のような点についての精査を求めるべきと提起する。

1)現状として土地保有権の認定状況はどうなっているのか。

2)慣習法的土地保有と個人的所有はどのように調整されているのか。

3)手続きへのアクセスはどうなっているか。

4)女性の土地へのアクセスは保証されているか。

5)更に土地紛争が生じた時の解決手段はどのように整備され、またアクセス可能か。

開発と権利のための行動センター

青西靖夫

フィリピンにおけるバイオエタノール事業の問題-工場の操業再開後も山積する問題~土地問題の長期化と公害問題の再発~FoE

 

伊藤忠商事、日揮が進めるフィリピンのバイオエタノール事業に関し、FoE Japanのサイトに新しい報告がアップされました。

http://www.FoEJapan.org/aid/land/isabela/2013Jan.html
(現場の写真は上記サイトでご覧ください。)

フィリピン・イサベラ州バイオエタノール事業
工場の操業再開後も山積する問題~土地問題の長期化と公害問題の再発~

 

一部 抜粋

ここにあったバナナは父親が植えたものだったんだ、1973年だよ。
父親が私にこの地を譲ってくれて、いままでこのバナナの面倒をみてきたんだ。バナナが切り倒されて心が痛むのは当然……泣きたい気分だったよ。
ここは私たちの生活の糧で、毎週バナナを収穫して、塩やバゴーン(小エビの塩辛のような調味料)なんかを買えていたけど、もうそれもなくなっちゃったよ。

そう静かに語ったのは先住民族カリンガ出身の青年。彼の案内してくれた農地には、切り倒されたままの無惨なバナナの姿が一面に広がっていました。
12月初め、その地で約40年間、彼ら家族の生活を支えてきたバナナのほとんどが、この農地の所有権を主張する第三者によって切り倒されてしまいました。

セラード開発プロジェクトとモザンビークのProsavana

 

ブラジルのセラード開発の問題点についても知見が深い、印鑰氏が、モザンビークにおける JICAプロジェクトについて、ブログに記事を掲載しています。(2011/11/17)

http://blog.rederio.jp/archives/1295

プロサバナ計画に関する Justiça AmbientalおよびFOE モザンビークの立場


   プロサバナは、プロデセール(PRODECER)、すなわち1970年代以降にブラジルのセラードにおいて行われた日本ブラジル農業開発計画に着想を得たものである。ブラジル、日本、モザンビークの各国政府によって成功例として引き合いに出されるプロデセールは、外国人(訳者注:ヨーロッパ系や日系移民とその子孫)に対する土地の分配と所有を促進し、その結果、ブラジルは海外において不当な手段で土地を奪う行為の熱心な促進者となった。
 
6500万人のブラジル人が食料危機に直面し、数百万人の人々が生存手段を保証す食料生産のために土地へのアクセスを求めるブラジルにおいて失敗した農業開発モデルを、ブラジルはプロサバナを通じてモザンビークに輸出しようとしている。この経験は、農民の生活森林、そして同国の生態系に及ぼしたインパクトと比較するとき、ブラジルのモデルにおける利益が無意味であることを示している。
 
プロサバナ計画は、「緑」という洗練された言葉によって巧みに装飾され、モザンビーク人および国際社会に「持続可能な農業開発」計画として提示されたが、同時にもたらされるであろう社会的かつ環境的インパクトの可能性は完全に除外された。しかしながら、この規模の開発計画は、共同体の再移転が必要となることが予測されるが、当事者である共同体がその事態について僅かにあるいは何も知らないことが懸念される。本件は、農民や現地の共同体を包摂することなく極めて高い次元で立案・決定されたものである。
 
日本は、プロサバナを通じて国外における安価な農産品の新たな供給源を確保しようとしている。その最終目的は日本や中国といったアジア市場への輸出である。 ブラジルは、プロサバナを関連生産者および起業の拡大、技術協力、そして格好の投資対象と見なしている。
 
そしてモザンビークにとっての利益は何であろうか。 本件の推進者たちにとって根本的な問題は、ナカラ回廊のほぼすべての土地が農民によって占有されているということである。同地域は国内でも最も人口が密集する地域である。つまりは肥沃な土地と十分な降雨が数百万人の農民が働き、豊富な食料を生産することを可能にしているのである。ナカラ回廊は同地域の穀倉地帯として知られ、北部諸州の住民らに食料を供給し、数百万世帯の生存を可能にしている。
 
プロサバナの正当化と意図は、土地の接収を促進し、その土地に依存する数百万の現地の農民を搾取することにある。プロサバナは、市民社会組織、なかでも全国農民連合(União Nacional de Camponeses: UNAC)によって既に議論され、否認された。UNACは1987年に設立された小農部門の農民による運動であり、モザンビーク政府によってパートナーとして認識され、農民にとっては全国レベルで自らの利害を代表する団体として認識されている。この25年間、UNACは土地と自然資源に対する農民の権利や、農業分野における公共政策をめぐる議論において農民組織の強化に必要不可欠な役割を果たしてきた。86,000名以上の個人会員、2,200の協会および共同組合、83つの郡レベルの連盟、州レベルでは7つの連盟と4つの支部を擁している。
Justiça Ambientalはプロサバナ計画に対するUNACの反対声明を支持する。
 
Justiça AmbientalおよびFOEモザンビークは以下の点において、プロサバナ立案と実施の全ての過程を性急に非難する。
1. 上意下達(トップダウン)式の政策の移入に基づき、公開されている情報は現在に至るまで不完全であり、不明瞭である。
2. 本件は、「持続可能な農業開発」として暗示的に小農や農民組織を主な対象としているように思われるが、共同体の移住と土地の収奪が予測される。
3. ブラジル人農場経営者らの参入は、モザンビーク人農民を安価な労働力になり下がることを余儀なくする。
4. 休耕地という土地利用の在り方に基づき、実際には利用可能な状態にない数百万ヘクタールもの土地を必要としている。
5. 本件の立案と実施によって農民が受けられる恩恵は不明瞭である。
6. 本件は、概して農民と地域社会の土地の接収を加速させる形で構想されている。
7. 土地所有を危険に晒す状況を引き起こし、「土地利用に関する権利(Direito de Uso e Aproveitamento de Terra, DUAT)」に示された農民の諸権
利を脅かすものである。
8. 大規模な利害が絡み、汚職と利害対立を悪化を加速させる。
9. その生活を全面的に農業生産に委ねている多くの現地の共同体の不安定な生活条件を悪化させるものである。これらの共同体は、耕作すべき土地なくしては、生存のための代替手段もなく、その結果、本件は大規模な農村人口の流出を引き起こす可能性がある。
10. 本件は、高度な機械化と、化学肥料や殺虫剤といった化学製品の過剰な使用が見込まれ、土壌と水質の汚染が予測される。
11. EmbrapaがMonsantoとの関係が予測されるにもかかわらず、遺伝子組み換え作物の使用の如何については決定的に透明性を欠いている。
 
 
我々は、モザンビーク国家が、モザンビーク共和国憲法第11条に明記された合意に基づき、その主権を全うし、国民の利益の擁護のために主導的役割を果たすことを要求する。
 
さらに、我々は、モザンビーク政府が、モザンビーク国民とりわけプロサバナに最も影響を受け、かつモザンビーク国民の大半を占める農民の希望、憂慮、そして必要性を考慮し、プロサバナの評価を見直すことを求める。既に提案された文脈において、プロサバナは、食料に対する主権、土地や水資源へのアクセス、そして数百万世帯のモザンビーク人の社会構造を危機に曝し、国民の未来を破壊するものであ
る。
 
 
2013年1月 マプトにおいて

日本語訳文はは舩田クラーセンさやか氏より提供されました。

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